『あくまでいちゃラブなロイエド』
□『傍から見たら』5/14
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アルフォンスから見たら、そう見える。
* * * * * * * * * * * * *
「僕、思うんだけど…」
アルフォンスはまたしても不機嫌な顔でストローを揺らしている兄を見る。
エドワードはぴく、と眉を動かしてギロリとアルフォンスを見上げた。
まるでアルフォンスの言おうとしている事がわかるかのように嫌〜な顔だが、アルフォンスはそんな態度にあはは、と笑う。
「大佐の事なら言うなよ!?」
「まだ、な〜んにも言ってないじゃない」
ガシャン、と金属音をさせてアルフォンスは両足をアスファルトに投げ出す。
う、とエドワードが言葉に詰まって眉を寄せた。見る見る耳まで赤くなっていくのを見てアルフォンスはくす、と笑う。
「あ、れ」
アルフォンスが少し離れた場所を指差し、エドワードはむす、としたまま指の先を横目で見る。
「あ?」
「あれみたいだよね、兄さんと大佐って」
二人が座っているカフェのオープンテラスから数メートル離れた場所に、目一杯の威嚇に毛を逆立てている猫と、それを構いたくて低く構えて尻尾を振る犬が居た。
「ほら、ちょうどあの犬も黒いし?」
「〜〜〜〜〜!」
黒のラブラドールレトリーバーは毛艶も良くて品の良い革の首輪をしている。猫は金茶色のミックスでポワポワした毛並みからしてまだあどけなく、赤いリボンに鈴をつけて今にも猫パンチを食らわせそうな勢いで片手を上げていた。
あと一歩でも犬が近付いたらモコモコしたその愛らしい肉球に爪を光らせて攻撃をかます気満々だ。
「あんなにサイズ違わねーっつの!!」
「え〜、あんな感じだよ。あ、ほら!かわされた!」
「んげ!あの犬、ムカつく〜ッ」
黒ラブが這って近寄ろうとし、茶猫はビビッと跳ねてすかさず猫パンチを繰り出したが数ミリの差でかわされた。
エドワードがダン!とテーブルを叩いてストローを吐き捨てる。
「なーにやってんだ!やれ!やっちまえ!!」
「兄さ〜ん…」
エドワードが椅子をガタガタ言わせて全身で猫の応援を始め、アルフォンスは呆れてやっぱり似てるよね、と肩を竦めた。
元来、犬は猫と遊びたくて近寄り、猫はびっくりして攻撃または逃亡するものである。
アルフォンスからしたら、いつもいつも嫌味や皮肉を織り混ぜながら嫌がられるのを承知で兄を構うマスタングと、いちいちそれに食って掛かって猫パンチのような見た目より威力のある反撃をしてあっという間に姿を消す兄の姿は、目の前の黒ラブと茶猫のやりとりそっくりだった。
「あっっ」
エドワードが身を乗り出したとたん、茶猫がジャンプしてガシッと黒ラブの鼻に飛び付き、黒ラブがきゃん!と鳴いた。
「やったか!?」
「え〜」
鼻にしっかとしがみついた茶猫がガブッと噛み付き、また黒ラブが悲鳴とともに後ずさる。
ここぞと茶猫は引っ掻いて黒ラブから飛び下り、一目散に人混みを走り去る。
黒ラブは鼻をかしかしと前足で擦り、茶猫が消えてしまったのに気付くとぐるぐる辺りを見渡している。
「やりー!勝ちだな」
「ん〜。逃げられるのかなぁ」
「はあ?」
「だって、犬だし」
アルフォンスがまた指をさし、エドワードは眉をねじ曲げてそれを追うと、犬は地面に鼻をつけ、何やらフンフンと探している。
あ、とエドワードがアルフォンスの言おうとしている事に気付くのと同時に、黒ラブは走り出した。
エドワードは呆気にとられて目も口も大きく開いた。
「犬だからねぇ?匂い嗅ぎ付けられちゃうんじゃなぁい?」
「!?」
エドワードは去って行く黒ラブの尻尾がウキウキと揺れているのを見、大きく吸った息を低いうなり声で吐き出しながら椅子に沈む。
あれではすぐに見つかってしまうではないか。
「んだよ〜。ずりぃじゃん」
「そう?でも猫は塀とか登っちゃうし、簡単には捕まらないでしょ」
「あ〜う〜ん、まぁな……」
それでもエドワードは歯切れ悪く口を尖らせた。
「俺だって、犬なんだぜ?ったく」
エドワードはストローが無くなったのでグラスを掴んでグイッと煽る。
ふと、カフェのパラソルではない影がその顔に掛かった。
「君はどちらかと言えば猫だろう?」
「――!」
エドワードの心臓が飛び上がり、目をむいた。
そこには、綺麗な弧を描く笑みを唇に乗せて、穏やかに瞳を細めた、彼の人がこちらを覗き込んでいた。
「あ、マスタング大佐」
アルフォンスが気付いた時には、突然の出会いに固まったエドワードの椅子は半分も後ろに傾いていた。