『あくまでいちゃラブなロイエド』
□『大きくて窮屈なベッド』
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広けりゃいいってモンでもない。
窮屈だからって、嫌なわけでも、ない。
大きくて窮屈なベッドもまんざらでもないか。
* * * * * * * * * * *
「大佐もっと向こう行けよ」
「ぅおっ……っ」
マスタングはエドワードに押されてベッドの端まで追いやれた。
エドワードは広々としたベッドに満足げに転がる。
「何だね、こんなキングサイズのベッドで」
エドワードとは逆に不満を見せるマスタングが頬杖をついてエドワードの横顔を見やる。
その顔になお気を良くしたようにエドワードはふん、と鼻を鳴らしてにやりとした。
「こんだけ広けりゃ、あんたが居ても気にしねーで手足が伸ばせるからな」
「……」
マスタングはむぅ、と口を曲げた。
エドワードの言い草では暗に一緒に寝るのがうざったいと言っているようなものだからだ。
恋人と二人、ベッドでお互いのびのびだなんてどこの枯れた老夫婦だ。
いやいや今は性行為が無くとも抱き合ったり体を擦りあったりするコトだけでも愛情が伝わって老化防止になると言うじゃないか。
「……」
そんな事を考えているマスタングが口に出さないのは、目の前の恋人が輝かしい十代の麗しき姿を惜しげもなく晒しているからで。
「……はぁ……」
思わずため息も出てしまう。
「はあ?んだよ、ため息なんかつきやがって。…普段嫌っつーほどくっつかれてんだから、たまにはいーだろっっ」
また。
くっつかれてる、とわざわざ言うのは、自らの意思では抱き合ってくれていないと言っているわけだな?
わかっている。
わかっているとも。
喜怒哀楽の感情はむき出しでも、こと恋愛感情に関してだけは素直でないと言う事は。
「………」
マスタングは腹の中で必死で己を説得しつつ笑顔を作る。
エドワードは怪訝な表情でマスタングと向き合い同じように頬杖をついた。
「何気持ち悪い笑顔作ってんだよ」
ひく、とマスタングの頬が引きつる。
よくもまぁこの、ロイ・マスタングに向かって気持ち悪い笑顔などと。
「言ってくれるね、君は……」
込み上げた怒りともムカつきとも似て非なる恋人への独特なもどかしい気持ちを一呼吸で押し込め、マスタングは微かにシワを寄せるエドワードの眉間を指で押した。
エドワードは子ども扱いなそれに、む、と瞳をキツくしながらも振り払わずにぐい、と押し返す。
「お、やるかね」
「にゃろ!負けるか、よ!」
マスタングの人差し指、それも左手と、エドワードの首の力比べ。
どう見たってエドワードに分があるはずなのに、マスタングはくす、と口の端を上げて受けてたつ。
「んん〜〜〜ッ」
エドワードは横になったままという不安定な体勢でも勝てるとふんでマスタングの指を押し返そうとするが、思った程力が入らず首が反ってしまう。
「おや?鋼の。私は指一本なんだがね?それも左手だ」
「まだ力入れて、ねー、っつの!」
ぎゅう、とまぶたを閉じているその姿のどこが力を入れていないのやら、と思いながらマスタングは先程とは打って変わって楽しそうにエドワードの必死な顔を眺めた。
「くっ…そ……ッ」
堪らずエドワードが、より力を入れるために体をずらして両肘をつき、うつぶせる。それでも首が反ってしまっては思うような力は出ないもので。
「いつもの馬鹿力はどうしたのかね?まるで子猫だな」
「うるっせー!!誰が目付きの悪い野良猫子猫サイズかー!!」
ぎゃん、と噛み付いたとたんにマスタングの指がぐり、と的から外れた。
「ふぎゃっっ」
「おっと…っ」
エドワードは勢い、バッタリとベッドに顔面から突っ込む。
「大丈夫か?」
ぽむぽむ、とエドワードの頭を軽く叩き、マスタングは悔しそうにシーツを握るエドワードの指先を見つめた。
「あー、もう、ムカつく!何だよ!指一本て!」
エドワードがシーツを握ったまま思い切りマスタングを睨みあげた。
マスタングは頬杖の視界の下に見えるエドワードの赤くなった眉間にふむ、と一人納得する。
こんな風に自分がつけた跡が目に見えるのは気を良くしてくれる。それも手強い相手を指一本で降伏させたという事実。
にんまりと笑うマスタングにエドワードは悔しくて大きく口元をねじ曲げる。
「首が反ってしまっては力が入らないだろう?だから私が指一本でも勝てたわけだ」
「くっ…そぉ…」
ギリギリと奥歯を鳴らしてエドワードは両の拳でベッドを叩く。負けず嫌いが誰にも負けないようなエドワードにとって、その力学的に簡単な事に気付けなかったのが一番悔しい。
マスタングは組んだ両手に顎を乗せ、ベッドを横断して突っ伏すエドワードのつむじを見下ろしてふ、と穏やかに瞳を細めた。