『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『天の邪鬼な背中』
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今夜も見えるは愛しい君の白きうなじ。








* * * * * * * * * * *





マスタングはまた、エドワードを抱き締めながら少し切ない気分になっていた。
というのもエドワードは自分と向き合って寝る事が無い。例えば寝返りをうってこちらを向いたとして、その寝顔を喜々として眺めなどしていたら察したかのようにぐりんと背中を向けられる。
そのたびにマスタングは涙を飲む。

「…………はぁ」

落ち込むようにため息をつくと白い首筋の金糸がそれを受けてそよぐ。
その色気を間近で見ていられるのはもちろん自分だけで、恋人の特権だ。
しかし、こうしてぴったり体をくっつけていてもたまには額をつける距離で寝顔を見たい。
絹の針のような強さを閉じ込めるまぶたを彩るまつ毛の落とす影も、憎まれ口が大半のはずがつい先程までは腕の中で悦楽に抗えない声を発していた唇が柔らかく穏やかな様も、出来るならいつも聞き取れない寝言も。

「………」

そう、寝言はかなり気になるところだ。
後ろから抱き締めているのに、こんなにくっついているのに、音の向かう反対側というだけで何を言っているのかまったくわからない。

まぁそれはともかく。

「…起きてこの体勢のまま襲うと怒るくせに、だ」

マスタングは納得いかない顔で口元を緩く曲げた。
朝起きてついその気になったりしたらそりゃあ健康な男子としては事を始めたい。エドワードはそんなマスタングを知った限りの文句を投げ付けて拒否する。

「私は何なんだね…」

思い出してまた短くため息を吐き捨てる。

背中を預けると言えば聞こえは良いが、こちらがあらゆる手で愛情を示すのにそっぽを向かれている気がしなくもない。
それを意地でも向かせようとすれば機械鎧のストレートが飛んで来る。マスタングはぐるぐるとめぐる数々の仕打ちにだいぶ気持ちが暗くなった。

恋人を抱き締めている夜にこれ程ヘコむのもどうかと思いはすれ、すこしくらい欲もある。
いや、口に出来ない妄想なら山とある。

薄目で拗ねたような顔をしながらマスタングはえい、とエドワードのうなじに顔を押し付けた。このくらい、我慢している事の多さに比べたら許されて良い、はず。

「っんだよ!?」
「ぅぉ………っ」

エドワードの怒声にマスタングがびくっと肩をすくめた。

「お、驚いたな。起きていたのか…」

目をむいてバクバクする心臓を繕うようにマスタングが笑うと、エドワードがぎゅ、と体を丸めた。

「あんたが耳元ででっかい独りごと言ってっからだろ!?寝言は寝て言えっつんだよ。ったく」

毛布を引き寄せエドワードはブツブツと文句を言いきつく目を閉じる。
マスタングは、体を丸められた事でエドワードの背中すら腕の中から離れてしまい急に冷気が吹き込んだような寒さを感じた。
慌ててエドワードを追ってぎゅう、とその体を抱き締めた。

「馬鹿ヤロ!放せ!寝づれぇだろ…っっ」
「いつもいつもそうやって背中を向けられている身にもなりたまえ」
「はあ?」

眉をハチの字にして甘えるとも諭すともつかないため息まじりのマスタングに、エドワードは困惑気味に疑問符を投げた。
軽く肘で押してもマスタングはより力を込めてくるため、これ以上締められたら苦しくなってしまう。

「………」
「………」

エドワードは黙って顔に掛かる髪の隙間の視界を眺めた。
マスタングは呆れたかのようなそれにどう答えが返ってくるか無言で待った。
自分のわがままと言われたらそれまでだし、寝難いのは否定出来ない。

「……くっついてんじゃん」
「顔が見たい」

ぼそっと呟いたエドワードに即効マスタングが答える。

「っ顔に他人の息かかんの嫌いなんだよ。息苦しくなんだよっ、酸素吸うはずなのに二酸化炭素吸ってる気分で!」
「寝言が聞きたい」
「っばっか……っっ」

しれっと言い放ったマスタングにエドワードはガバッと両手で頭を抱えた。

「んなもん聞きてーとか言うなら一緒に寝ねーぞ!変っ態!!」
「なんの。愛しい私の名を呼んでいるかもと思えば縛ってでも」
「!?」

一緒に眠るさ、と体をすり寄せて耳元に甘く囁く声にエドワードが悪寒と色気に総毛だった。

「寝言なんか言ってねーし!?」
「いーや、毎回何かしら寝言は言っているな」
「断言すんなっ。あんたの薄ら寒い寝言聞かされてうなされてんの間違ないだろうが!」

キッと睨む目を向けエドワードが肩越しにマスタングを見ると、ほぉ、とマスタングが片眉をあげてにや、と笑った。

「―――!」
「私の寝言は聞いている、と?」
「そりゃ真後ろで言ってりゃ嫌でも……っっ」

言ったエドワードは言葉が続かない。

「それはフェアじゃないな」
「は、ああ!?」

そっちが勝手に抱き付いて、こっ恥ずかしい寝言を囁くのを許してやってんのにフェアかどうかなんて関係無い。

「君と私の位置を交換するというのはどうかね」

エドワードは面倒くさい事を楽しげに提示してきたマスタングに半ば諦めてカクッと頭をベッドに沈ませた。

「ああ、はいはい。好きにしろよ。俺は向き合わないなら構わねぇよ」
「投げやりだな」
「ゆーコト聞いてやってんのにまだ文句あんの?俺、眠ぃんだよ、誰かさんのせいで」
「それは光栄だな?」

自慢でもするようにうさん臭い笑みを浮かべるマスタングに噛み付こうにもあくびが先立った。
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