『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『極上のバスタイム』
1ページ/3ページ




極上のバスタイムを味わうのに余計なものは要らない






* * * * * * * * * * * *







「邪魔だっつんだよ!」

バッシャン、と勢い良くバスタブの湯を手のひらで叩く。
正座で湯に浸かるエドワードの目の前には長い楕円形のバスタブの縁に肘を引っ掛けたマスタングがのんびりと指先で湯をかき回し動じる様子なぞなくて、エドワードは悔しそうに上目遣いに唸った。

「仕方ないだろう?このバスタブはあまり広くはないのだからね、少しは我慢してくれ」
「―――!?」

そして、ふう、と息をついて子どものわがままにでも呆れたような表情をするマスタングが、自分のその行動にエドワードの顔がババッと赤くなっていくのを見て、楽しそうな意地の悪い笑みを口元に乗せ視線を流した。

「だ、だから、一緒に入らなきゃいいだろが!」
「そんな寂しい事を言わないでくれ」

これ以上赤い頬を見せないようにエドワードがふん、とそっぽを向けばマスタングが甘えたような言葉を掛ける。

「………」

そんな声を出されるとエドワードは身体のあちこちがむずむずして落ち着かなくなってしまう。

普段から一緒に風呂に入りたがるマスタングを懸命に制しているエドワードも時には押し切られてこうして狭いバスタブに浸かる事になるのだが今日こそ堪忍袋の緒も切れた。
交替で入ればいいものをマスタングはやっと一緒に入れる機会を逃すまいと絶対にバスタブには一人で入らせてくれない。

「もっとこちらに来れば手足も伸ばせるだろう?…おいで、エドワード」
「―――ッ触んな!」

声音もそのままに、緩い水音を立ててマスタングが両腕を伸ばしてくるのをエドワードは反射的に叩き落とした。

「ひどいな」
「うっせ!エロじじぃっ」

まさしく頭から湯気でも出しそうなエドワードの抵抗に、マスタングもとりあえず手を引っ込め、深く湯に沈み濡れた髪をかき上げた。
マスタングですら身体をすべて湯につけようとしたら膝は伸ばせないバスタブは、必要以上に広いバスルームには不釣り合いにも見えるが、湯船に肩まで浸かる習慣のない国のものではそんなものだろう。そもそもマスタングがこの住居を選んだ時にはまさかこんな風に恋人と戯れるなんて思ってもみなかった。ましてや、絶対に手に入れる事など無理だと考えていたエドワードとなど。
しかしこうなってみれば、考えようによってはこの狭さは非常に都合が良かったわけで。
だからこそエドワードが抵抗するのを押し切る甲斐があるというくらい。

「こ、この状態でだって、十分!近過ぎなんだよ!これ以上どうやったら…」

身体を重ねてすでに数ヶ月も経とうかというのに、いまだに羞恥心を失う事のない反応が見られるのだから。
たまらない。

「……」
「聞いてんのかよっ」

バシャバシャと大きく湯を飛ばしてエドワードがむ、とした顔でひとり邪な感慨にひたるマスタングの膝を叩いた。

「……聞いているよ、君の言葉はすべて。ひとつとして聞き漏らしたりしないさ」
「な……」

にっこりと微笑み、マスタングがバスタブの縁で頬杖をついてエドワードを見つめると、エドワードはひく、と口元を引きつらせて絶句した。
熱めに入れたはずのお湯が冷水に変わったかと思うくらいぶわっとエドワードが鳥肌を立ててぶるりと震える。

「構わないだろう?私の家に来た時くらいはわがままを聞いてくれても」
「……」

エドワードの飛ばしたお湯をかぶった顔を両手で拭いながらこぼすため息に、またエドワードは対抗する言葉を見失う。
ちら、と視線を落とせばバスタブの中で機械鎧の手足がゆらゆらと揺らぐ。少しもとどまる事のないそれは、今の自分のひと処に立ち止まる事を許さない有様を見せているようでちくりとエドワードの胸を刺す。
だからって、それがどうにかなるわけでもないし、どうこうするつもりもない。

「エドワード?」

うつむいたままのエドワードにマスタングが声を掛けると、ぴく、とエドワードの身体が揺れ、また波を起こして視界が揺らぐ。

「………」
「……」

静まる事のない流れを、瞳に映してエドワードは黙り込んだ。
こうやって同じ湯に浸かっているだけで、エドワードにしたらその流れの先にマスタングとのつながりがあるようで落ち着かないというのに、大人な恋人はいつだって余裕しゃくしゃくとしていて、負けた気分になる。そんな事は恋愛感情を抱いた時から勝てないと知っていたのだけれど。
どうしてそんなに軽くあしらえるのだろう。
今も自分の心臓の鼓動は湯面を揺らしてマスタングに届いてしまう。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ