『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『無知は一番の武器』
1ページ/4ページ




手練手管なんて、通用しないのが本気の恋?



* * * * * * * * * *





今日は意外と早く上がれた。
マスタングは妙に浮かれ調子な部下たちを不審に思いながらも軍部を後にした、のだが。

ゴン、ゴン!

マスタングは無遠慮なノックに眉をしかめる。

ゴン!ドン!

もう部屋着に着替え、帰宅中で買い求めたデリを突きながら最近買ったまま広げる時間もなかった参考文献を膝に乗せていた。

「……何なんだ、いったい。…おや」

イラッとした気分を抱えながらもソファから立ち上がり、先ほどのノックの鈍い音に首を傾げた。
普通ノックされる音よりだいぶ重い音がしたような。

「…?」

玄関で再び腕を組んでこの扉を開けるべきか、マスタングは悩む。
その躊躇を読んだかのように扉の向こうからは数人の声がしている。

「あいつらか…」

ものすごい嫌な予感がする。
あの呑みに行きますと言わんばかりに浮ついた足元でそそくさと帰った、上司を誘いもしなかった阿呆どもめが、酔っ払って上官宅へ乗り込んできたわけか。
ぐぐ、と拳を握り締め、マスタングは、ふ、と自嘲の笑みに顔を引きつらせた。
誘いもしなかったくせに。

意外と根に持つタイプだなんて自分でもよく知っている。

どうせここまで来たタクシー代がないとか何とか、たかられるに決まっている。
ハボックの図々しさに最近嫌気がさしていた。

と、額に浮かぶ怒りの血管を指で押さえつつ、マスタングはとりあえず玄関ののぞき穴から様子を伺うことにした。とにかく、あいつらだったら、居留守だ。

そっと、音を立てないように靴を避けてマスタングがのぞき穴に近寄り息を殺して顔を近づける。

「――――は…!?」

うぐ、と口を手で思い切り押さえ、マスタングは思わずあげた声を飲み込んだ。

は、鋼の…!?

小さな丸い歪んだのぞき穴から見えたのは、こちらと同じように様子を伺うために片目を閉じて背伸びをしているのだろうエドワードで、がっちり、視線が合ってしまった。

ドン!ドン!

「――!!」

のぞき穴から見えただろうマスタングにしめた、と思ったように、エドワードがまたドアを叩き始めた。

「大佐―!!あーけーて〜!!重いんだよ!」
「〜〜〜〜っっ」

ドアから飛びのいたままのマスタングは口を押さえ、倒れそうになっていた。

何だ、何故鋼のが…??

「大佐ってば!!」
「――――っ」

蹴り開けられそうな勢いに、慌ててマスタングは玄関のドアに飛びついた。




「はぁ〜。助かった」
「………」

ソファにごろごろと懐くエドワードの様子を横目で見ながら、マスタングはキッチンのシンクに寄りかかりコーヒーカップを傾けた。
ちら、とリビングを見渡せば散々な状態だ。
どうやらハボックやブレダ、フュリー、ファルマンまでもがエドワードを巻き込んで呑んでいたらしい。
まぁエドワードはなめる程度で呑んだ、という雰囲気はないのが一安心だが、こいつらは未成年を連れて、それも自分に断りもなく。
そう、そこだ。

「鋼の。何故こちらに来ているのに私に連絡をしなかったのかね」

ため息交じりのマスタングの声に、エドワードはまったく悪びれる様子もなく三つ編みを揺らして振り返った。

「え?電話入れたぜ?出たの、ハボック少尉だけど」

手に持っていたのがグラスなら完全に粉々に割れたはず、というくらいにマスタングがカップを握りしめた。
あいつは何なんだ。わざとか。

「で、食事しようってゆうから大佐も来るんだと思ったんだけどさ〜。食事したら大佐んとこみんなで行こうってゆうから、そのまま。…知ってんだと思ってたんだけど…この様子だと」

知らなかったみたいだな、とエドワードが苦笑いをしてソファの背に両腕を乗せてマスタングを見る。
マスタングが心底嫌そうなため息をつく。

「まったく、何か企んでいそうな顔で帰って行ったと思ったら、これか。うちは臨時の宿ではないんだぞ」
「軍に一番近いもんな〜。明日みんなまとめて出勤すりゃ遅刻しねーし?いーじゃん」

だから、そのための休憩所ではないと今言ったばかりなんだが、とマスタングがエドワードをにらむ。

「はぁ…、勝手にしたまえ。私はまだすることがあるから。鋼の。君も適当にアルフォンスに連絡を入れて、休みなさい」
「……へーい…」

スタスタと自室へと行ってしまうマスタングを見送りながらエドワードはソファで丸まった。
アルフォンスにはとうの昔に連絡を入れてある。
今日は帰らないからと。
マスタングの家にみんなで行くからって。
そんな大勢で行ったら迷惑だよ、と止められたのだが、ハボックが笑顔で軽く遮ってしまった。
行った方が大佐のためだからって。

「……ほんとに、大佐のためになんのかなぁ」

エドワードはコートを脱いで肩に掛け、ちょっと寝る体勢に入りながら呟く。
あんなにあっさりと、ろくに言葉も交わさずに自室へ行ってしまったマスタング。

「ちぇ…」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ