『あくまでいちゃラブなロイエド』

□『密かな楽しみ』
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一緒に居過ぎると疲れるのに。

密かな楽しみが取り上げられるとムカつく。






* * * * * * * *


「大佐ー!飯!」
「っぶっっ」
「…あ?」

両手にお皿を持ってキッチンから満面の笑みでエドワードが現れ、マスタングは見事に紅茶を噴いた。買ったばかりの分厚い参考文献の表紙がぶわ、と紅茶に染まる。

「あ、まずい。エドワード、布巾を…」

慌てて顔を上げたマスタングに、エドワードは一瞬だけ、顔をしかめ、またにぱ、と笑った。

ローテーブルに山盛りの皿を置いて快くキッチンから布巾を持って帰って来る。

「…………」

マスタングはいつもだったら『馬〜鹿』だの『や〜い』だのからかうエドワードが貼り付けたような笑顔で差し出す布巾にとても怪しんだ。

「大丈夫か?」
「うむ…」

『ヘタレ』とか言うならまだしも、彼が心配そうな声を掛けてくるのは、悪寒が走るかと思う。

マスタングは表紙を拭きながら首を捻った。

テーブルにはエドワードが作ったと思しきキノコとベーコンのバジルソースのパスタ。
あり得ないくらいの質量。

何だ、何かしたか。

まず自分を疑ってしまうのは、日々の行いのせいだろうか。
ははは、と引きつり笑いをしながらマスタングはなお考える。

「大佐、飯」
「ああ、ありがとう」

布巾と交換にフォークを渡され、エドワードはマスタングの隣にクッションを置いて座り込みテーブルに両肘を乗せた。
くりくりとフォークでパスタを巻き、マスタングの口元に突出す。
笑顔はそのまま。

「………………」

マスタングはまた、口に入れるにはあり得ないだろうパスタの量を気持ちの悪いくらい笑顔のエドワードに突き付けられ、数秒、見つめあってしまった。

やっぱり、何かしたのだ、と思うが、思い当たらない。

とりあえず、今日のところは、だが。

「あーん?」

エドワードが可愛らしく小首を傾げ、思い切りマスタングの口にフォークを押し込んだ。

「〜〜〜〜〜ッ」





「エドワード……言いたい事があるなら言いなさ…」
「はー、苦しっ」

小山のような一皿を食べ尽くしたエドワードはカチャン、とフォークを放り出しマスタングの肩に背中をもたれさせた。

「…………」
「…………」

マスタングは三分の二ほどは頑張ってみたのだが、とりあえずフォークを置いた。

背中を向けてしまったエドワードの表情は読めないが、この沈黙と軽くうつむく首筋からして、やはりエドワードは何事かを考えている。

「…………」

マスタングはその編まれたしなやかな髪をひょいと摘み、軽く首筋に唇を押し当てた。

「―っ」

エドワードがビク、と肩を跳ねさせて、でも払い除ける様子がないのを見るとなおさらマスタングは不思議な感じを覚えた。
そっとエドワードの頭を抱え、膝に倒しても抵抗する気配がない。
ころん、とマスタングの膝に転がり、エドワードは大きく肩から力を抜いた。

「……」

その様子はため息なのか安堵なのか、マスタングははかりかねて眉尻を下げた。

最近、忙しくてお互いあまり一緒に過ごす時間がもてなかったからエドワードの変化に気付いてやれなかったのかもしれない。
何かあっても自分から話すような性格でないエドワードにとって、たまったストレスの吐け口はない。

「無理をしているんじゃないのか?……エドワード」
「してない」

即答されてマスタングは二の句が継げない。
口の端を曲げ、マスタングはエドワードの頭を撫でながらパスタの残った皿を見つめた。

「あんたと…」
「ん…?」

エドワードの消えそうなつぶやきにマスタングは視線を向けた。
エドワードが吐き捨てるように大きく息を吐いてゴソ、と体を揺らす。

「あんたんちで…一緒にいるようになってから、無理とか…してねぇし」

ふて腐れた声音。
マスタングはふ、と表情を緩めた。

「…そうか」
「あんたこそ」
「ん?」

マスタングの安堵の声にかぶるようにエドワードが鋭い言葉を呟く。

「あんたこそ無理、すんなよ…」
「してるつもりはないがね…?」
「ふん…」

エドワードの返事は納得のいかないような口調で、マスタングはまた不審さが募った。

何が気に入らないのか。

「じゃあ…」
「ん?」

上から覗いてもエドワードの頬辺りが軽く膨らんでいるのがわかる。
マスタングは上半身を折りエドワードを覗き込んだ。

エドワードは言葉を探すように視線を泳がせてもごもごと口を動かしている。

「………」

これは。

ぴん、と何かがマスタングの頭で跳ねた。

とたんにマスタングの口元は抑え切れないようにゆるりと弧を描く。

エドワードは組んだ手をもぞもぞさせながらちら、とマスタングを横目で見上げ、その瞳とかち合って息が止まった。

「――――ぃッ」

これ以上ないくらいにマスタングが悪魔な笑みを浮かべているではないか。

ぼ、とエドワードの顔に火が付く。

「そういう事か…」
「何、が……っ」

ふふん、とマスタングがなお煽るように笑いエドワードの髪を撫で、エドワードは見つかった天敵に手を出された猫のように飛び上がった。

「どこに行くんだ、ん?エドワード」
「ひぇ……っっ」

膝から跳ね起きたエドワードを後ろからガシ、と捕まえマスタングがにやにやと含み笑いで声を掛ける。

「最近……」
「うん?」

まだ抵抗する手は止めずにエドワードはマスタングに抗議の目を向けるが、マスタングは何となくエドワードの言いたい事が読み取れたので逃げられない程度に腕の力を抜いて、こちらを向こうとしているエドワードをさり気なく膝で囲い込んだ。
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