『あくまでいちゃラブなロイエド』
□『スイッチ』
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部屋中のスイッチを付けてもエドワードのスイッチは別のとこ。
* * * * * * * * * * *
「大佐って、おかしいよな」
エドワードの真顔での意見に、マスタングがポロッと手から本を落とした。
「は………?」
マスタングは執務室の机を挟んでエドワードと向き合い、呆気にとられた。
エドワードは眉間を寄せ推理でもするように机の前を行ったり来たりする。
「…何がだね」
またこの子は何を言い出したのか、とマスタングは気を取り直し床に落ちた本を拾い上げようと身体を屈めた。
「………ん?」
カツ、と目の前にエドワードのブーツが立ち止まり、マスタングはその体勢のまま顔だけ上げた。
エドワードが腰に手を当て軽く首を傾げている。何とも納得いかないと言った顔つきだ。
マスタングはまた何を言われるのやら、ここは大人な恋人として懐広く受け止めてやらなければ、と思いはするが、果たして仁王立ちしているエドワードに何と返したものか。
体を屈めたまま膝に頬杖をつき、マスタングはエドワードを上目遣いに見上げた。
何となく口元が緩むのは、きっと何だかんだ言ってはいてもエドワードが自分に関心をもっているらしい事が嬉しく感じるからだ。
いつも素っ気なくて、甘い恋人同士というのは望めないエドワードは、それが男の子らしい気はずかしさからくるものなのだろうとマスタングは思っているから仕方がない。
恋人が可愛らしく甘えてくれるなんてことはまぁ、この子といる事を選んだ時からないものねだりになった。
だからといって、それを諦めたわけではない。
マスタングとしては、やはりいつか帰宅時に満面の笑顔で駆け寄って来るエドワードを夢に見ているわけで、実際最近は並んで歩いていると以前よりずっと距離が近くなった。エドワード自身気付いていないようだが、マスタングはその手の触れそうな距離が嬉しい。
だから、見上げた自分にエドワードがいきなりしゃがみ込んで近寄って来たりしたので、思わず手を伸ばしそうになってしまう。
「大佐ってさ、変なところでスイッチ入るだろ?」
「スイッチ…?変なところ?」
しゃがんだままコートを引きずってエドワードがマスタングの所までズンズンと進み、視線の高さを合わせる。
その仕草が何となく可愛くてマスタングがふ、と笑う。
「ほら、今だって笑う事なんか何もねぇじゃん。何嬉しそうな顔してんだよ」
エドワードが頬杖をついているマスタングの口の端を指でぐに、と押す。
「鋼の……」
さすがに嫌そうにマスタングが眉をひくつかせる。
「で、変なところとは何だね?」
ふう、とため息をついてマスタングは首を傾げてエドワードを促す。
「………」
エドワードはマスタングの気のない表情が意外と気に入っている。今みたいに偉そうな態度は時にカチンとくるものだが、こんな執務室の机の影でコソコソ話をしていると、少し秘密めいていて、キスされそうに近い距離は知らずに気持ちが浮き上る。
でも、今はそれはまた別として。
エドワードはお気に入りのマスタングの表情に頬が紅潮しそうになる事に咳払いして腕組みをした。
「俺がさ」
「うむ」
マスタングが足を組んで体を倒し、改めて頬杖をつく。
「……」
エドワードは人差し指をたてて話し出そうとして口を開いて止まった。
わざとか、と言いたくなる。
実はエドワードにもマスタングの仕草でツボにハマるものはある。
悔しいのだが、それは認めるしかない。絶対に言ってはやらないけど。
今みたいに足を組んで頬杖をつき傾げた顔に意地悪く笑みを浮かべられると、一瞬思考回路が停止してしまう。
「鋼の?」
「あ、え、いや…」
エドワードは軽くうつむいて自分の顔をぐにぐにと撫で回し、顔を上げてまた真顔になった。
「俺が歯磨きしてるといきなり現れて抱き付くだろ?」
「…………ああ」
身に覚えはあった。
「俺がソファに膝抱えて座って本読んでると急に後ろから抱き付くだろ」
「……………そう、か?」
つい昨日の事だからマスタングも否定できない。ちょっと視線を反らしてしまう。
「トイレ入ってると待ってるだろ」
「いや、それは……」
「昨日もその前もその前も、大佐んちでトイレから出るといるじゃねぇかよ」
む、とエドワードが変質者を見るような目付きでマスタングを見る。
いや、それは偶然。
でもないか。
「てゆーか、そもそもトイレ入ってる俺に声かけるかよ、普通」
「…………」
ふん、とエドワードが腕を組んでマスタングを見据えた。
「いや、だいたい君を探している時に姿が見えなくてね。トイレかと思って声を掛けるだけで、だな……」