『ひっ越し後』
□『お誘い−夜』…08/2/13
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エドワードの目がちかちかする。
「な、何、あれ…」
「…ダンサーの女性のことか?なかなかセクシーだな」
「つーか、ほとんど裸って言わねーか、あれじゃ」
始まったショーが真正面だったため、エドワードは食事の手が止まってしまった。
夜、マスタングが予約した東国料理のレストランで、甘辛いような甘酸っぱいような料理を、意外と気に入ったらしいエドワードは、まだ来ない品を待って足を揺らしていた。
マスタングの皿に残っている料理をじーっと見ているとたいていほら、と渡されるので、育ち盛りとして喜んで平らげていた。
変わった店内の様子も気に入ったのか、昼の痴話喧嘩などなかったように楽しそうな顔を見せているエドワードを、マスタングも満足していたのだが。
パッと照明が消え、店内のひな段だけが明るく照らし出される中で登場した踊り子に、エドワードはフォークを持った手を止めて口をあんぐりと開いた。
「裸ではないだろう?あれは衣装だ」
エドワードの呆気にとられた顔があまりにおかしくて、マスタングがテーブルについた手で口を押さえて笑い出した。
「だだ、だって、丸見え…」
「レースだ。それに下は付けている」
自分の真後ろの踊り子に振り返り、マスタングは苦笑した。
確かに胸と下腹部には黒い水着のような衣装を着け、腰から下へ黒の華やかなレースが足首まで流れるようなドレイプを作っている。
でも、エドワードからしたらその体を覆う布の少なさと、女性の口元を隠した黒のレースにの上に光る切れ長な瞳の艶やかな雰囲気に知らない色気を見つけて、釘付けになった。
「え、あれで何…踊るのかよ…?」
「ショーだからな」
肩を揺らして笑い続けるマスタングに、顔を寄せて小声でエドワードが有り得ないだろ、と顔を赤くした。
「…」
マスタングは、L字形のソファに座っているエドワードが、尋ねるためでも自分にピッタリ張り付いてもじもじする姿が何とも新鮮で、その頬に軽くキスしてみる。
「うわ、わっ!何すんだよ!止めろ、んなとこで…っ」
慌ててエドワードが頬を押さえて顔を上げる。
「暗いからわからないよ」
「そゆこっちゃねーっつの…!」
バシバシとマスタングの腕を叩きながら、真っ赤な顔を逸した。
いきなりしやがって。
バクバクと鳴る心臓を押さえ、エドワードは少しソファを横にずれる。
「わ…」
前触れはなく、バーン、といきなり大きな音とともに音楽が流れ始めた。
聞いた事のない異国の音と歌声が店を満たして行く。
「…へ、ぇー…」
滑らかに天を指す踊り子の指先の末端から、細い糸のようななまめかしさが動きとともに生み出され、耳慣れない楽器の奏でる音はそれを乗せて宙を舞う。
「…」
食い入るようにその軽やかであでやかな踊り子を見つめるエドワードを、マスタングはテーブルに組んだ手の上に頬を乗せて見つめ、いとしそうに顔を緩ませた。
「……」
エドワードの瞳は彼女の指の動きを追い、高い管楽器に耳を猫のように集中させている。
「……」
言葉を発しない口元が、惚けるように微かに開いているのをマスタングは飽くことなく見つめた。
少年期特有の色気なのか。
マスタングは時折そう思うと、静かな切なさを感じて焦りに似た気持ちに戸惑う。
彼の成長は早い。
いつか、自分との関係に思い悩む日が来る。
マスタングは自分が同性愛者でも、少年愛者でもないことを知っている。
その上で愛しいと感じるから、納得できても、エドワードはどうなのだろう。
女性を知る前に受けた刺激を今は追い求めて恋と違えてはいないか。
「……」
マスタングは、足を軽く揺らしながらショーを見入るエドワードに、届くはずの手がどこまでも遠く感じた。
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