『ひっ越し後』

□『お誘い−昼』…08/2/1
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「誘ってねーっ」
「そうか?」

エドワードがダンダン、と足を踏み鳴らすので、マスタングは腕を組んで首を傾げた。

「私にはそう見えたんだが」
「んなのてめぇの勝手な妄想だろがっ」

肩で息をしながら、エドワードは肌蹴たジャケットをグイッと元に戻す。
ふむ、とマスタングは執務室の椅子の肘掛けに頬杖をついた。
横に立っているエドワードは頭から湯気が立ち上がりそうなほどの怒りと、それよりも昼間から襲われそうになった事への恥ずかしさが上回ってギリギリと歯を鳴らして真っ赤になっている。

その姿に少し困って、でも赤くなっているのがかわいいな、なんて軽く考えていたマスタングは次のエドワードの行動に驚く。

「んー…ではどう取れば良かったんだ、エドワード」
「な、ま、え、で…呼ぶな!!」
「…」

バン、と思い切り机を叩かれ、マスタングが目を丸くした。
機械鎧の指がギシッと机を軋ませ、マスタングは続ける言葉を失った。

エドワードの意地っ張りも、態度の悪さもよくわかっているつもりだが、少し、ショック、と言うか、軽くイラッとした感情が沸く。

「…そうか。では、また明日来なさい。私はこれから会議だからな、…鋼の」

マスタングが一瞬の間の後、目を伏せて立ち上がる。

「……あ」

腕を掴まれると思ったエドワードが身を引くと、マスタングはその横をスッと、通り過ぎた。


「では、明日…」

ガチャン、とマスタングが扉を閉める。
その一瞬に見えた瞳の冷たい空気に、エドワードはその場に立ち尽くした。

「なん…」

また、明日?

「…きょうは…」

夕飯の約束は?
連れて行きたいレストランがあるとか言ってたじゃねぇかよ。

明日は顔を出したらすぐにアルフォンスと駅に向かう予定なのに。
それをマスタングが知らないはずがない。

それなのに、明日来いと言うなんて。

「……」

ぐ、とエドワードは机についた手を握り、顔をしかめる。

「ああ、そうかよ。…また、明日、な」

バン、と自分の報告書の束を叩いてドアへと足を向ける。
バサバサと落ちていく紙にも振り向かずに、エドワードは執務室を後にした。






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