★猫の嫁入り★

□『飼い猫のモテ数』
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恋の花咲く春が過ぎても。









* * * * * * * * * * * * * * *



散歩道には危険がいっぱい。


「…みゃあ?」

エドワードはマスタングに抱えられたまま、ふと下から聞こえた声に振り返った。

「みゅうん」

小さくて真っ白な、まだ子猫と言える程の猫がこちらを見上げていた。
エドワードは目をパチクリさせ、マスタングの腕から乗り出して手を振ってみる。

「エド?」
「たあさ、にゃあがいりゅにゃ!」
「ん?……あぁ、可愛いな」

くりんとした水色のビー玉のような瞳がキラキラとエドワードを見つめている。マスタングはエドワードを抱え直してしゃがみ込んだ。


今日は天気が良かったから久し振りにエドワードを連れて街を歩いていた。
あまり連れ歩くと、東方のこの街ではまだ見慣れないエドワードのような者は好奇の視線にさらされる事もあるため、マスタングはエドワードに帽子を被せて尻尾も洋服の中でウェストに巻き付かせていた。


「知り合いかい?エドワード」
「ちあう。でもかぁいい!」

エドワードも、アルフォンスや身近な人型の猫以外の、普通の猫に興味津々のようだ。
店ではエドワードのように人型をした種類と通常のペットとしての種類は部屋も分けられていたからあまり交流はなかったらしく、真っ白な子猫がペタリとエドワードの膝に前足を乗せると、エドワードがぱあっと顔を輝かせた。

「うあ!かぁいい!!」
「にゃあ、みゃあぅ。みぅ!」
「にゃ!?」

エドワードが嬉々として両手を差し出すと、相手の子猫はぴょん、とエドワードに飛び付いた。

「みゅうん♪」
「………」

ごろごろと喉を鳴らして懐く子猫に、エドワードは勢いで落とした帽子から飛び出した耳をひく、とひと振りして固まる。

「エドワード?どうかしたかい?」

あれだけ興味を示したふわふわな子猫に懐かれているのに、勝手が違うのかエドワードは微かに耳を震わせるだけで撫でる気配もない。

「エドー?」
「みう♪みゃあうん♪」
「……にゃ、にゃ、にゃにゃ…ッにゃあ!?」

甘ったれた声で擦り付く子猫とは反対に言葉にならない声を発していたエドワードが、びくっと大きく体を揺らし、マスタングは慌ててエドワードの両脇に手を突っ込んで抱えあげた。

「んにぃ〜ッッ」
「みぅ〜♪」

エドワードがバタバタ暴れて悲鳴をあげる。

「エド……ッお!?」

抱えあげても毛玉のような相手の猫はしっかとエドワードにしがみついていて、…エドワードの口を舐めていた。
嬉しそうにちゅう、とキスをする猫にマスタングも絶句。

「た、た、たあさ!たしゅけ……にゃあッッ」
「あっこら!」

マスタングは目の前の信じられない光景に呆気にとられたが、エドワードの助けを求める必死な声で我に返り、地面にエドワードと猫をおろして猫の首根っこを掴んだ。

「みにゃ!!」

マスタングにつまみ上げられながらも子猫は必死でエドワードにしがみつく。

「なん……!?」

マスタングは無理矢理ひっぺがすにも相手はエドワードより大分小さな猫なわけで、まさか放り投げる事も出来ないから、猫の首を掴んだまま、パニックになっているエドワードとの間に腕を突っ込んで引き離そうとする。

「にゃんにゃ!にゃんにゃんにゃ―!……っおぇは!たあさにょ!およめしゃん…にゃー!!」
「みゅ!?」
「エド…!?」

懸命に子猫の爪を洋服から外しながらエドワードが通りいっぱい響き渡る大声で叫ぶ。

「ふー…っみー…っみぃ…っっ」
「………みぅっ」

エドワードが半泣きに近い表情で肩を揺らし、目の前の白猫を睨む。子猫は一瞬だけ目を回したように黙ったが、ぴょん、とエドワードから飛び退くと、うつむいて丸くなった。

「たあさっっ」
「え…っあ、抱っこか?」

マスタングがのけ反り止まっていた呼吸を再開し、エドワードが伸ばした両腕を掴まえて膝に乗せた。

「………」
「………」

マスタングの膝に乗ってほっと体から力を抜き、エドワードはちら、と肩越しに子猫を見た。耳までしゅん、とした子猫はキレイな青い瞳をぎゅう、と閉じている。
エドワードは何とも言えない表情で唇を噛んだ。

「マリー!マリー!?」

その時、遠くから女性の声が近寄ってきて、子猫は急に顔を上げて辺りをぐるりと見渡した。
パタパタと軽い足音で若い女性が走って来る。

「……飼い主かな」

マスタングはエドワードを抱えて立ち上がった。

「あっ。すいません…。マリー!こんなところに居たの!?」
「あなたの子猫ですか?」
「えぇ」

心配げに青ざめた顔の女性はマスタングに一瞬驚いたが、うずくまる子猫に近付いてぎゅう、と抱き締めた。
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