★猫の嫁入り★

□『君の一番』
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いつだって一番じゃなきゃ。








* * * * * * * * * * *




「あら。…エドワード君?」
「にゃ!?にゃん!ちぅいぃっっ」

エドワードはマスタングの抱えたバッグから両腕を伸ばしぴこん、と耳から現れて満面の笑みを見せた。
大きな布製のバッグが揺れマスタングが慌てて持ち直す。

「エドっ。暴れると落ちてしまうだろう?おとなしく…」
「ちぅい、ちういにゃ!」

バッグを掛けていたマスタングの肩によじ登ろうと、エドワードは今度は伸ばした両手でマスタングをつかまえる。
マスタングはエドワードのはしゃぎ振りに苦笑いを浮かべながらバッグを床に下ろし、軍服の肩をわしわしと登ろうとするエドワードを抱え上げた。

「ほら…って、走るんじゃない!エドワード」
「みゃあん!」

エドワードは廊下に足が着くか着かないかでホークアイ目掛けて走り出す。
ホークアイは書類を片手に持ち替え笑顔でエドワードを迎えた。しゃがみ込むホークアイの腕に飛び込んだエドワードは嬉しそうに顔を埋めゴロゴロと喉を鳴らした。
その姿にマスタングは何とも複雑な笑みを見せてバッグを手にため息をもらしながら立ち上がる。
ホークアイはエドワードを抱え、歩み寄って来たマスタングにも笑顔を向ける。ホークアイにとってもエドワードは険しい表情を和らげてくれる対象なのだとマスタングに伝わった。

「どうされたんですか?エドワード君を連れてのご出勤だなんて」
「うむ。少し熱っぽいようでね。家に独り置いて来ては心配で仕事が進まないと困る」
「………えぇ、そうですね」
「みあ?」

ホークアイの微妙な間に漂う棘にマスタングは空笑いを浮かべ、エドワードは不思議そうにホークアイを見上げた。

「風邪かしら?エドワード君」
「ねみゅぃ〜」
「薬を飲ませたんだが、何せ人間用しかなくてね。子どもの摂取量の半分程にはしてみたんだが」
「そうですか。とりあえず、目の届く場所で寝かせておくのがいいのでは」
「ああ、すまない」
「ちゅみゃにゃぃ?」

エドワードの舌ったらずな声にホークアイとマスタングは顔を見合わせてくく、と笑いながら廊下を歩き出した。
フードのついた赤いコートで体をくるみ、ホークアイはエドワードの頭にフードも被せて抱きかかえた。エドワードのもこもこした尻尾が楽しそうに右、左、と揺れた。
作戦室に入るまでは。





「はよーございます…って、あれ?大将??」

ハボックは室に入って来たマスタングとホークアイと、ホークアイの腕に抱えられているエドワードに目を丸くした。

「み…!?」

エドワードの耳がぴくん、と勢い良く声の方を向き、ハボックと目が合ったとたん思い切り眉間にしわを寄せてぶんぶん尻尾を回転させた。
マスタングは少々困り顔で頭をかき、ハボックに離れていろ、と軽く手を振った。
ハボックもエドワードがここへ来た事情はどうあれ、ひとまず自分が席を離れるのが最善策とわかっているため、仕方なく煙草の箱とライターを掴んでよっこらせと席を立つ。

「あー…アルも連れてくりゃ良かったっすね」

あーっと大袈裟なくらいのため息をつき、ハボックはちら、とエドワードを横目で見ると勢い良くエドワードがフーッと威嚇の声を上げた。
後ずさるハボックにホークアイがエドワードの頭を撫でてなだめ、少しの哀れみを含む笑みをハボックに向けた。
猫背に輪を掛けてうなだれるハボックが出て行くまでエドワードの丸い瞳は逆三角を描いていた。
マスタングも自席に座りながらその逆立つエドワードの尻尾が揺れるのを苦笑いで見ていた。

エドワードが居たペットショップには弟のアルフォンスも居た。
そもそも二人が居たペットショップはハボックが見つけた。そこでアルフォンスに恋をしたハボックがこそこそそわそわと時間を見つけてはアルフォンスの元に通っていたのだが、その店からどうもよろしくない噂が流れ出したのをホークアイが聞き付け、マスタングに報告をしたまでは、まぁ、良かった。
早速マスタングは逃げ腰なハボックの襟首を捕まえてそのペットショップまで案内させた調査初日、あろう事か何の情報も掴む前にミイラ取りがミイラの如く、金毛金目の子猫エドワードに一目ぼれしてしまった。

一足先にハボックがエドワードの大切なアルフォンスをもらい受けたのが良かったのか悪かったのか、ハボックは早々にエドワードの敵認定を受けてしまった。たとえアルフォンスの主人であろうと、自分の前では決してアルフォンスに近寄らせない。
アルフォンスの前を行ったり来たりしながら終始ハボックへの威嚇を緩める事がないのだ。
今ではハボックがマスタングの家にアルフォンスを連れて来てもハボックが玄関から先に入る事は、ない。エドワードが起きている限りは。
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