★猫の嫁入り★

□『メジャーと軍服』
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譲れないのです。







* * * * * * * * * * *





マスタングはメジャーを手に思案顔をしていた。

「ふ…みゃ〜」

エドワードが大きく腕を突っ張って伸びをする。かしかしと手で顔を撫でまたソファに転がった。
マスタングはメジャーをぴんと張って少し離れた場所からそのエドワードに目盛りを合わせて片目を閉じた。

「ふーむ…。やはり正確に測るには無理か」

くるくると指でメジャーを丸めながらマスタングはため息をつく。
そろそろ新しい洋服を買いに行こうと思うのだがエドワードがおとなしくサイズを測らせてくれないのだ。なだめてすかしておやつを見せてもメジャーを見たとたんに飛び上がって威嚇される。
マスタングは腕を組んで深く考え込んだ。
家に来た時にはエドワードの着替えは数着あったのだが、とにかく活動的なエドワードは寝ている時と食事時以外はあちこち走り回っているため、切り傷擦り傷とともに服も傷物にしてくる。庭くらいならと外に出したのが間違ないだったのか猫の本能か、木登りを覚えたエドワードは昨日見事に最後のズボンをおしゃかにしてしまった。
今はホークアイがワッペンなどで補強してくれた半ズボンを履いているのだが、これからまた走り回ったら数時間後にはどうなるかわかったものではない。

「猫におとなしくしろと言うのはまず無理な話だろうからなぁ…」

それも雄の子猫だ。
縄張り意識も出てくれば庭の端々まで他の猫の匂いを探して泥だらけになるのもそう遠い話では無いはずで、エドワード用のクローゼットを買う事も考えている程だ。
猫の衣服専門店もあるが子ども用の服を買って尻尾穴を開けても良い。とりあえずエドワードの気に入る物をと考えているのだが、その前に肝心のサイズが測らせてもらえない。
今までの服にサイズ表記が無かったためマスタングはメジャーを持ち出したわけだが、何が気に入らないのかエドワードは逃げ回る。
この調子では店に行ったところで試着はおろか下手をすれば店員に飛び掛かりかねない。

「お…?」

ソファで伸びをしてまた転がったエドワードが両手両足を伸ばしてうつぶせている。つっぷしたまま、かくんかくんと頭が揺れていると言う事は寝ている証拠だ。

「よしよし」

にや、と笑ったマスタングが足音を忍ばせてソファへと向かう。これでまずは身長を測れる。足のサイズも。
試着させるにもある程度のサイズは知っておきたい。
本当はちょっとしたスキンシップをが取りたい、と言う下心がマスタングにはあったのだが、この際それには目をつぶろう。

「……起きるなよ…」

祈るように呟いてゆっくりと屈み、メジャーを素早く走らせていく。
かかとから頭まで、足、肩幅と次々に測り数字を頭に叩き込む。メモなど悠長に取っていたらいつ目を覚ますかわからない。
それにしても、とマスタングは一通り測り終えてメジャーをまとめながらエドワードの寝顔を見下ろした。

「猫と言ってもヒゲはないな」

気持ち良さそうに寝ているエドワードのぷにぷにした頬を見てマスタングがくすりと笑う。これでヒゲでもあったらハロウィンのコスプレのようだ。
触りたくてうずうずしてくる。

「ちょっとだけ……」

人差し指をそうっと伸ばしてマスタングはエドワードの前髪を揺らした。

よし、起きない。

反応を確認してマスタングはいそいそとエドワードに近寄る。そしていよいよ指の先に餅のごとく柔らかそうな頬が触れる、と気持ちが高まった時。
ひく、と鼻を動かしてエドワードがむふぅ、と息を吐きながら目を覚ました。

「あ……っ」

マスタングが作っている影にエドワードが怪訝な瞳を上げ突き出された指に鼻が当たった。

「ぴ……っっ」

毛を逆立てる程に驚いて思わずぎゅ、とまぶたを閉じエドワードは両手で顔を撫で回す。

「ふみゃっ。ふみゅっ。ぅにぃあっっ。たあさ!たぁさ!!」

パニックになったエドワードが必死でマスタングを呼ぶ。

「エ、エド?大丈夫か?」
「はにゃぁっ」
「はにゃ??…あ、鼻、か」

何かが鼻にぶつかった事に余程驚いたらしい。まだ両手で鼻をわしわしと擦っているのでマスタングは優しくその手を掴んで抱き上げた。

「すまない。私の指が当たったんだ、大丈夫だよ」
「ゆびぃ?」

パチクリとエドワードが丸い瞳を瞬かせマスタングの指先を見つめた。
事情が飲み込めやっと落ち着いたらしいエドワードを膝に乗せてマスタングが頭を撫でるとばしりと叩かれた。
触るな、と言う合図なのだが、無意識に助けを求める相手に対してこの態度。
マスタングは叩かれた手をぶらぶらさせて見せる。
いつもいつもやられっぱなしでは立場がない。

「ほお?君は私に助けて〜と泣くわりに撫でただけで引っ掻くのかね」
「いにゃにゃぃにゃ!」
「何を言ったのかな〜?エドワード」

マスタングはこれみよがしに耳に手を当て聞き返す。エドワードがぼん!と噴火してその手を爪でガシッと引っ掴んだ。
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