『番外*花町』
□『番外コネタ 其の五』
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「旦、那ぁ…が……んぅっっ」
息が詰まりそうなほど急激な突き上がる衝動にエドワードがびくん、と大きく跳ね、ぎゅ、と手の中の熱を握った。同時に熱いものが勢いよく溢れた。
「…………ふ、ぅ…」
今度は一気に襲ってくる気怠さと恍惚感にエドワードがぱたりと体を布団に横たえる。
「にゃ……ぅぅん」
締め付けられるような辛さから開放され、すりすりと自分の尻尾に懐きながらエドワードは軽く開いた口元から吐息を吐いた。
何だか、とてもすっきりしたような、くすぐったいような。
ロイの花蝋燭に包まれているせいなのか、余韻は甘くて溶けそうな感じ。それがなおのことエドワードの気分を良くした。
が、次の瞬間、本当のロイの声にエドワードが飛び上がる。
「エドワード!」
「うぎゃっっ」
いいかげん我慢の限界にきていたロイがガタ、とふすまを開け一歩中に入ろうとしたとたん、エドワードは悲鳴を上げて徳利を掴んだ。
「大丈……」
「来んなあ――!!!」
心配しすぎて蒼白になっているロイの額に、ガン、と徳利がぶち当たる。
「うぉ……っ」
あまりの勢いでロイが後ろによろめく。
「エド……ッ」
「帰れ―!!」
「なん…っ」
バタバタッとエドワードが這い寄ってふすまを閉めた。
「エドワード!?エドワード!」
「帰って!帰れってば!!」
「………」
ふすまを挟み、エドワードは必死にロイを帰そうとし、ロイはわけがかわらぬまま帰れないとエドワードをなだめようと懸命に声を掛ける。
「どうしたんだ。具合が悪いのか…?それとも私が何かしたのか…」
「……ッ」
そんなに辛そうな声を出されると、エドワードは後ろめたくて仕方ない。
だって、発情期だなんて知られたくないし、ましてや……ロイの香と声でそれを開放してしまっただなんて、絶対に。
下唇をぎゅ、と噛み、エドワードは泣きたい気分になった。抗えない衝動なのに、どうしようもなく悲しくなる。
ロイは両膝を折りふすまに手をついてエドワードの声を待った。
いったい、何が起こったのだ。
「……ごめん、今日は、もう酒の相手できねぇから…帰ってくれ。買上げの分は次に回すから……ごめん」
エドワードはふすまに背を当て、うつむいていた。
内腿にはまだ自分の体から放たれた生温い液体が流れていた。
それが、ロイに対しての後ろめたさを増幅させる。
こんな事、して良かったのか。
発情期なのだから仕方ない。仕方ないのだけど、床の相手はなし、とうたっている店の、この自分が客を部屋から締め出してのあらぬ醜態。
「エドワード…顔を見せてくれ…」
「……」
「そうでないと私は、心配でとても帰れないよ」
ロイはふすまに額を当て、請うように呟く。
ゆっくりエドワードはふすまの方へ体を向けた。
「……」
ほんの少し、エドワードがふすまを開ける。
「エドワード…」
「ぅん…」
うつむいたまま、エドワードは二寸ほど開けたふすまの間から、ロイの床についた膝辺りにうろうろと視線を這わせた。
とても目なんか合わせられない。
こんな近くで、あの瞳には耐えられない。
「大丈夫なのか?…本当に」
「―ッ」
ロイの指が顎に触れ、エドワードがビク、と身を引いた。
ロイが眉をしかめて優しく、静かに髪を撫でる。
「今日は、帰るよ?」
「ん……ごめん…」
「構わないさ。お前の顔が見れて安心したから。…ゆっくりおやすみ」
すす、と軽く頬を指で撫でロイが手を袖に収めた。