『あくまでいちゃラブなロイエド』
□『基本的なこと』
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「……」
執務室のソファに並んで座り、エドワードは努めて不安な気分を隠そうとする。
足を組んで背もたれにどっかりともたれて座るエドワードとは逆に、マスタングは前屈みに膝についた腕を組んで無言のままこちらを見ていた。
「…」
お灸をすえる、と言って連れてきたわりに、黙ったままのマスタングに、エドワードは落ち着かない。
「どっから…」
「ん?」
エドワードが沈黙に耐え切れず、苦々しい顔でマスタングを睨む。
「…どっから、見てたんだよ」
「…。…ああ、君が少尉に抱え上げられた時の声が聞こえて…その後のことはすべて」
「ーっじゃ…っ何で助けないんだよ!」
エドワードが思い切り引きつりながら顔を真っ赤にする。
見られていた。
それなのに、助けなかった。
で、なんで今俺が怒られないといけない。
うー、とうなるエドワードに、マスタングは考えるように頬杖をついた。
「ん、いや…うむ…」
相手が答えに窮しているのがわかって、エドワードは怪訝な顔をする。
「いや、…興味があるのかと…」
「はあ!?」
「い、いや、…」
マスタングは眉を寄せて言葉を選ぶ。
一応、お付き合いを、しているはずだろう?自分達は。
そう言ったらきっと、エドワードはさっきの出来事を思い出してパニックになるかもしれない。
むむ、と口を曲げてマスタングはどう話したら良いものか、真剣に考えていた。
多分。
少尉二人が話していたわい談に単なる興味で割り込んだのだろうが、内容が悪かった。
「ああ、…まぁ、君も年頃なわけだからなぁ…」
「何がだよ!」
うろたえるのはマスタングの方で、知らないからこそ、エドワードはムッとしてマスタングにくってかかる。
はぁ、と困り果てたため息とともにマスタングが片手で顔を覆う。
「……そうつっ掛かるんじゃない。私の方が辛いんだがね?」
「はあ?何で。やられたのは俺なんですけど!?」
「…っ。鋼の。そういう言い方は、やめてくれないか」
「あ?」
グサグサとエドワードの言葉に刺されるようにマスタングが両手で顔を押さえた。
エドワードは、マスタングがなぜそんなに腹でも痛いかのように顔をしかめるのかわからない。
恥ずかしい思いをしたのだって、こっちだろ。
見られて…。
「ーぃっ」
そう思った瞬間、エドワードは一気に体中の毛が逆立って絶句した。
「…」
指のすき間から覗くマスタングの瞳に、エドワードはようやくさとった状況を飲み込むに飲み込めず、声もなく悲鳴を上げる。
『男同士の場合、まぁ口でやりあうのがオーソドックスなわけだわ』
ハボックの耳打ちがエドワードの頭に響いた。
『何を?』
『〜〜大将のそれ…っ。咥えんの。そこまで言わせんなよぉ…』
『はぁ?』
『女にはしてもらうんじゃん?そのうち、エドも』
『ー!?』
それでもそこそこの知識は人並みにあるエドワードが、そこまでで固まった。
で、じゃあ、男女間の最終形態があるわけだから、男同士はどうすんのかって、話。
「あ、…え…あ…」
エドワードが先ほどのコトを最後まで思い出し、一瞬にして真っ赤になる。
「エドワ…」
「わ、わー!!何もゆうな!!!」
声を掛けようとしたマスタングに、エドワードが飛び上がってその口を両手でガバッとふさぐ。
「んぐ…!」
「な、何も言うな!何も聞くなー!!」
背もたれいっぱいにエドワードに押され、マスタングが勢いの強さにギブアップの手を上げるが、エドワードはこの手をどけたらこの世の終わりとばかりに、とてもじゃないが放せない。
見られた。
それも自分が『されている姿』。
「…ウソだろ、おぃー…」
ググッ、とマスタングの抵抗を押し返しながら、エドワードはく、と奥歯を噛んで顔が上げられなくなった。
待てよ。だって相手はでかいハボック少尉だし、自分が抱え上げられたのは一万歩くらいゆずっても、まさかマスタング相手…は…。
待っていたかのようにエドワードの記憶の映像が、ハボックからマスタングにすり変わる。
「ーっ有り得ねぇー!!」
「………」
エドワードの焦った叫び声に、マスタングは一瞬耳を覆って耐え、相手の理解が終わりまで済んだことを察して、肩の力を抜いた。
だから、何と言えば良いのかわからなかったと言うのに。
仕方ない。
ぶるぶるとエドワードの手が震えているのが伝わる。怒りと恥ずかしさで頭に血が上っているのか、その手はかなり熱をもっている。
「…」
マスタングがエドワードの腕を静かに掴む。
「ーっう…っっ」
それだけで、ビクン!と体全体で震えたエドワードが、少しだけ顔を上げようとして、また下を向く。
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