『あくまでいちゃラブなロイエド』
□『基本的なこと』
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「…だ、大丈夫だから…」
「…」
自分に言い聞かせるように呟き、エドワードはゆっくり、マスタングの口をふさいでいた手を放す。
「別に…」
別に大したことじゃない。
マスタングと、どうこうする予定なんか、ないんだから。
そう思っても、叩き付けられるように鼓動する心臓が苦しくて、エドワードは浅い息をする。
酸欠になりそうだ。
「鋼の…」
「…悪りぃ、小言は後で聞く、から…」
帰る、と言うと、マスタングがまだ掴んでいた腕を振りほどこうとした。
「放…っ」
とたんにマスタングが、グッと力を入れて掴み、エドワードは怒りの表情でそちらを睨んだ。
「なん…!」
「何が、大丈夫なんだ?」
低いマスタングの声音に、エドワードは一瞬小さく身を引く。
マスタングの表情は、少し悲しそうで、エドワードは言葉が出ずに立ち尽くした。
頼むからそんな顔しないでくれ。
マスタングがあれほどの怒りと動揺を見せた理由が、今の彼の瞳を見ればエドワードには理解できた。
「……帰らないで、くれないか」
「…」
戯れあっていただけで、ハボックにはそんなつもりは微塵もなかったはず。
からかっただけ。
でも、マスタングからしたら、まだ知らなくても良いと思っていたことを目の前で見せられ、驚いたなんてもんじゃなかっただろうし。
直属の部下に思わず火花を放つくらいに。
帰らないでと言うのだって、このままエドワードが帰ったら、もう二度と、自分が触れる事すら許さないのではないかという恐怖心。
『…私と一緒に、いないか…?エドワード』
そう言われたのはだいぶ前だった。
それが付き合うという意味だとエドワードが気付いたのは、ほんの数ヶ月前。
その時でさえ、エドワードは猫が天敵に遭ったかのように飛び退いて、しばらくキスさえさせてくれなかった。
手が触れただけで威嚇されるのをようやくなだめたというのに。
「た、大佐も…。…大佐は……」
「エド…?」
声が震えている。
マスタングが掴んでいた手を放そうとすると、エドワードが逆にその手を掴んだ。
エドワードの手袋を通しても微かな震えが伝わる。
「……ん…?」
「……」
マスタングが緩く指を絡めて先を促す。
それにビク、としながらも、エドワードは大きく息を吸って心臓を落ち着かせようとする。
「何だ…?」
「……大佐も、あー…ゆコト、すんの?…したい、のか…、俺、と」
「…」
マスタングが少し、返答に困って眉じりを下げた。
エドワードはどちらの答えが聞きたいのだろう。
ちょっとだけ、マスタングがエドワードの指に絡めた手に力を入れてみる。
放さずにふ、とエドワードが息を吐くのを見て、マスタングは安堵して頷いた。
「…ああ、…そうだな。できればね、そのうち」
「…そ、そか…。だよ、な。男、だからな、大佐だって、な」
「君もだろ?…鋼の」
「や、別に…俺は」
少しずつ引き寄せられて行く事にエドワードは気付いていない。
「ハボックのあれは、ともかく…。行為に、興味がないほど子供でもないだろうに」
「え?…そりゃ、女の子に興味がまったくねぇなんてウソだけど、…大佐相手だろ?考…考えるわけねー…っ」
「キスは好きだろう」
「ーぃぃッ」
言い切られて、エドワードが慌ててマスタングに向き直ると知らない間に腰に回された腕でぐいと抱き寄せられる。
「バカヤロ…!キ、キスとかだって興味だろ、興味!」
「でも、好きだろう?」
「う…、いや、ま、ぁ…ってそうゆんじゃな、い、だ、ろ!」
腕を突っ張ってエドワードが抵抗するのを、マスタングはなんだかんだとかわして自分の膝をまたがせてソファに乗せてしまう。
「で、何でこの体勢かー!!」
両膝を開いてマスタングの膝に腰を乗せられそうになって、エドワードがダン、とソファの背もたれを機械鎧の拳でぶっ叩いた。
「疑似セッ…」
「死ね!バカ…!!」
エドワードがドン、とマスタングの額を叩き付け、マスタングはのけ反りながらもエドワードに回した腕にグッと力を込めた。
「あ、バカ止めろ…!」
マスタングの意図通り、エドワードがマスタングの上に倒れ込んだ。
「そんなに暴れるな。本当にするわけがないだろう」
「あ、当たり前…っっ」
顔が熱いのをどうにもできずソファに頭を乗せるエドワードを、マスタングが腰を掴んで、よ、と座らせる。
「ーっぎゃ…っっ」
「…ひどいな、それは」
バン、と膝を閉じようとして失敗したエドワードに、マスタングが足を打たれて顔をしかめる。
「〜〜〜ッ」
「ん?」
ソファから少し顔を上げたエドワードがマスタングに怒りの目を向け、マスタングは頭をソファに乗せるようにしてそらし、ふ、と笑ってエドワードに顔を寄せる。
「や、め…っっ」
言ったところで、マスタングの細めた黒の瞳に浮かぶ笑みに、エドワードはキスを拒めた試しがない。
「エド…」
マスタングが喉の奥で微かに笑う。
エドワードはその甘えるようなマスタングに、不貞腐れたような顔をして、それからマスタングの唇に自分から口付けた。
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