Cool Blue
□Strawberry on the Shortcake U
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――ある秋の日の上田城。
幸村が庭に面した廊下を歩いていると、庭の隅にうずくまっている佐助の後ろ姿を見かけた。
何をしているのかと気になった幸村は庭に降り、後ろから覗き込むように声をかける。
「何をしておるのだ、佐助?」
「…あ、旦那。ほら、見てよコレ」
佐助の前には、空っぽになった植木鉢と、ふかふかの土がたっぷりと入れられた大きな囲いが置かれていた。
その囲いの中には何かの苗が植え付けられ、幼くも瑞々しい葉を広げている。
「可愛いでしょ?
コレね、片倉さんにもらったんだよ」
そう聞かされても、佐助が小十郎と懇意以上の仲だとすでに知っている幸村は、驚きもせずに苗を眺めている。
「それで、一体何の苗だ?」
「さぁ…実は俺も知らないんだよ。
育つまで楽しみにしてろって言われててさ」
本当に楽しそうにしている佐助の様子を見て、幸村も自然と口元を綻ばせた。
「無事に育つと良いな」
「『俺だと思って育ててくれ』なんて言われちゃあね。頑張らなきゃって気にもなっちゃうよ」
指先で優しく苗の葉をつつきながら、佐助はさらに惚気のような言葉を並べ続ける。
「育て方も教えてもらってるし、ちゃんと立派に育て上げるって片倉さんと約束したからさ。
…それに…」
「それに?」
「こういうのって、意外と嬉しいモンだよ。
離れてても、いつも片倉さんと一緒にいられるみたいで」
言いながら幸村を見上げると、優しい眼差しに見つめ返され、佐助は自分が惚気すぎたと気づいたのだろう。
わざとらしく「さて…そろそろ任務に戻ろうかな」なんて呟きながら、その場を立ち去った。
「あの佐助をここまで惚れさせるとは…
片倉殿はよほど佐助を大切にしてくだされているのだな」
その礼のつもりだろうか、幸村は苗の前にしゃがみこむと、両手を合わせて「どうか枯れてくれるなよ」と真面目にお祈りした。
* * *
その後も佐助は小十郎に教えられた通りに苗の世話を続けた。
苗は成長するにつれて、だんだんと厚い葉が繁り、残りわずかな秋の陽射しを求めるように力強く立ち上がっていく。
そして苗はすぐに、佐助も見慣れているモノへと姿を変えていった。
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