Cool Blue

□月に恋した紅い虎
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   * * *


――幸村が政宗に密かな恋心を募らせるようになってから、幾月かの後。

信玄から直々に託された密命を帯びた幸村は、佐助を連れて上杉領を訪れていた。


そして無事に謙信に謁見を終えて返事を受け取った、その帰り。

小高い丘を伸びる道に馬を駆けさせていると、遥か先まで見晴らせる森の奥に煙が幾筋ものぼっているのが見えた。

(あれは…戦の煙…)

馬の手綱を引いて脚を止めさせ、煙を見つめながら遠い戦場へと思いを馳せている幸村の後ろで、同じく馬を止めた佐助が何気なく呟いた。

「…あれ?
 あの辺りって確か、伊達軍が野営してる場所じゃ…」

「伊達軍が?」

唐突に出てきた名前に幸村が問い返すと、佐助は一瞬妙な――何かを後悔したかのような表情を浮かべたのだが、
すぐに元の表情に戻ると、首を縦に振った。

「昨日かす…上杉の忍からそういう情報を聞いたんだよ。
 目的は上杉じゃないみたいだから、今回は静観するって言ってたけど」

「…では…今あそこに、政宗殿が居られるのか…」

政宗の名を呟いた――その刹那、嫌な胸騒ぎが幸村を襲った。

丘からはたちのぼる煙しか見えず、優勢なのが伊達軍なのか相手の軍なのかはわからない。

だが戦場で培われた勘というのだろうか、伊達軍と聞いた時に頭を過ぎったのは――
竜が獲物に爪を立てて咆哮する誇らしげな姿ではなく、喉笛を貫かれて弱々しく首を垂れる姿だった。

「………ッ!!」

ぞくりとした冷たい悪寒に全身を貫かれた幸村は、自分の懐を探って信書を取り出すと、それを佐助に押し付けた。

「佐助、お前はこのまま上杉殿の返事を甲斐へ持ち帰れ!」

無理やり受け取らせてから馬の腹を蹴って大きく嘶かせると、甲斐への道を外れて煙の方へと丘を駆け降りはじめる。

「ちょっ…待ってくれよ、旦那っ!!」

佐助の制止の声はすぐに風と蹄の音に掻き消された。
森へ降りればもう幸村のいる場所から煙は見えなくなったが、幸村はひたすら真っすぐに馬を駆けさせる。

(そんなはずがない…政宗殿が敗けるなどと…!!)

だがそう思おうとすればするほど、胸騒ぎは激しく幸村を責め立てる。
全速力で駆け抜ける馬の脚ですら、遅く鈍っているように感じられた。


 

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