Cool Blue

□月に恋した紅い虎
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――それ以来、幸村はその夜の政宗の姿を忘れられなくなってしまったのだ。


気がつけば、政宗の事を考えている時間が増えた。
今頃何をしているのか、そんな些細な事がいつも気になるようになった。

甲斐の将として戦を終えたばかりの時でも、手合わせを口実に会いに行った事さえあった。

その時はさすがに政宗も「フェアじゃねぇ勝負はゴメンだぜ」と対戦を断ったが、それでもしばらくの間話し相手になってくれた。


それからは政宗も幸村が手合わせを願い奥州まで来ると、月見の時のように幸村と会話をする時間をつくるようになった。

「不思議なものだな。
 前はアンタのその紅い羽織を見ただけで血が滾ったモンだが、今はこうしてアンタとただ話をするのも楽しくなってきてる」

「某も…政宗殿と同じ思いでござる」

幸村は頷いて返したが、本当は話さえ必要ないと思っていた。
政宗が隣にいてくれる、ただそれだけでも心が満たされるような気がしていた。

「そいつは嬉しいね。
 また会いに来いよ、いろいろと相手してやるから」

政宗が親しみを込めた笑顔を向けると、胸が甘く疼いた。

この腕に政宗を抱きしめられたら…そのまま政宗のなにもかもを奪い去れたら――

「・・・幸村?」

突然名を呼ばれ、幸村はビクッと身を竦ませた。
見れば、無意識だった間に政宗の右手を奪い取り、自分の方へと引き寄せようとしていた。

「すっ、すみませぬ!
 少しぼんやりしていて…」

慌てて手を離してから、「ぼんやりするほどオレの話はつまんねぇか」なんて怒らせたら、と気づいて幸村は内心冷や汗を流した。
だが政宗は怒るどころか、相変わらず楽しそうに笑っている。

「帯刀してるオレと一緒にいてもぼんやりできるほどオレを信頼してるって意味なら、それはそれで嬉しいぜ」

そう言ってくれたその仕草が、笑顔が。
幸村をさらに政宗の虜にしてしまうのだ。



だが、恋など一度もした事がない幸村に、それが『恋愛感情』なのだと自覚する事は出来なかった。

政宗に会いたい。触れたい。声を聞きたい。
そうはっきりと思っていながらも、幸村はその甘ったるくもどかしい感情に名前をつける事が出来ずにいた。


 

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