Cool Blue
□月に恋した紅い虎
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――伊達政宗。
幼少期に右瞳を失った独眼竜。竜の爪を模した六爪と呼ばれる刀の使い手。
まだ若いながらも筆頭として奥州を取りまとめ、天下を狙う野心家。
そして――真田幸村が、恋心を抱くようになった男の名前。
幸村が政宗に初めて甘い感情を抱くようになったのは、習慣になりつつあった手合わせを願って奥州へ行き、そこで政宗に月見に誘われた時だった。
「アンタは団子が好きだったよな?
ちょいと作りすぎちまったんだ、食っていかねぇか?」
政宗と手合わせや戦場以外で二人きりになるのはそれが初めてで、幸村は正直なところ少し躊躇したのだが、
時間がないわけではないしせっかくの誘いなのだからと思い直して、それを了承した。
「では…お言葉に甘えて…」
「O.K.…そう来ねぇとな。
すぐに支度させるからちょっと待っててくれ」
政宗はいつもの堅苦しい羽織姿では寛げないだろうと幸村の分も浴衣を用意し、湯浴みの支度もさせてから自分の屋敷に招き入れた。
「心配しなくても、オレは丸腰のアンタを襲って首を奪ろうなんて無粋な真似はしないぜ」
「心配などしておりませぬ。
政宗殿がそのような卑怯なやり方を最も嫌う御方だと、この幸村も心得ておりますゆえ」
少し気を悪くした幸村がそう反論すると、政宗は悪びれる様子もなく謝罪の言葉を口にした。
「Sorry、幸村。でもアンタのそういうトコ、オレは好きだぜ」
政宗に勧められて湯浴みで汗を流し、軽い食事にも箸をつけた後で、二人は涼やかな夜の庭へと足を向けた。
あの時月を見上げながら何を話したのかは、今でもほとんど覚えている。
奥州と甲斐のこと、戦乱が続くこの世のこと、それに好敵手である互いのこと・・・
いつもなら、政宗の顔を見ただけで血が騒ぎ、闘志が燃え上がっていたはずなのに。
その夜だけは、政宗の傍にいても不思議なほど穏やかな気持ちでいられた。
そして、刀も敵意も持たず、柔らかな月光に照らされてただ静かに笑っている政宗の姿は、幸村の心を強く惹きつけた。
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