Cool Blue

□七月七日の恋物語 -伊真編-
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(まさか…幸村のヤツ、もう寝ちまったのか?)

とはいえ、城から戻る時間は朝のうちにちゃんと教えておいたし、
あの幸村が夕餉も食べずに腹を空かせたまま寝るなんて事は考えにくかったのだが…

閉め切られた静かな部屋の前をいくつも通り過ぎていくと、
襖が半分ほど開いている奥の部屋にわずかに人の気配を感じた。

(幸村・・・?
 珍しいな、普段はこんな部屋にいる事なんて滅多にねぇのに…)

襖の隙間の前に立って部屋の中を覗いてみると、幸村は庭に面した縁側で茶を飲みながら涼んでいた。

盆の上にはいくつかの茶菓子、それから自分の湯呑みのそばに政宗の湯呑みもちゃんとのせてあるのは、
政宗の帰る時間を覚えていた上で「しばらく一緒に縁側で過ごしたい」という幸村の意思表示なのだろう。

政宗が静かに襖を開けて部屋に足を踏み入れると、気配を感じたのか幸村がすぐに振り返った。

「政宗殿。今日も大切な御役目、ご苦労様でござりまする」

「その前に…戻ったらまず真っ先にする事があるだろ?」

傍らまで歩み寄った政宗は幸村の頬を撫でて上を向かせると、何も言わずに目を閉じた幸村に口づけた。

「……んぅ…」

政宗はゆっくりと深いキスを堪能してから口唇を離すと、幸村の隣に腰を降ろした。

「今日のおかえりのキスは、普段よりも甘い味がしてDeliciousだったぜ」

政宗の科白に幸村は少しだけきょとんとしてしまったが、すぐに政宗の言う「甘い味」に思い当たった。
食べたばかりだった茶菓子の甘さが、まだ口の中に残っていたのだろう。

「…疲れている時には、甘いモノを口にすると身体に良いのだそうでござるよ」

「確かにどっかでそんな話を聞いた事があるな。
 …なら、今夜はキスだけじゃ全然足りそうにねぇ」

「政宗殿が口づけだけで足りぬのは、毎夜の事ではありませぬか…」

「『政宗殿が』じゃなくて、『政宗殿も』…だろ? 幸村」

言い間違いを正してみせた政宗に幸村が無言で肯定の意を示すと、
政宗は微笑いながら茶菓子を一つつまんで口の中に放り込んだ。


 

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