Cool Blue

□素直なキモチ。
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一方の元親は元就が抱いている心証などカケラも気にしていないのか、
肩に槍を担いだまま、何かを思案するように元就を眺めている。


「毛利元就・・・やっぱり俺は、あんたじゃなきゃダメみたいだ」


「・・・?」

元親の呟きの意味が理解できず、元就は眉をしかめて相手を見やった。

「――よし! 決めたぜ、俺は。
 あんたのその凍っちまった心、この俺が必ず溶かしてやるよ。
 だから自分の心で凍えちまいそうになった時は、いつでも俺に会いに来な」

「…妙な男だな。
 何故、貴様はそこまで我に構おうとする?」

警戒の視線を投げかけながら問う元就に元親が返した科白は、至極単純なものだった。


「さぁ。あんたの事が好きになったからかな?
 …どうしても見てみたくなったんだよ、あんたが心の底から嬉しそうに笑うトコがさ」


そう答えた元親の微笑みは、不思議と元就に不快感を与えはしなかった。
それは多分、元親が偽りのない本音を教えたにすぎなかったからだろう。

事実元就はその時、元親の意外な答えにしばし自失してしまったのだが、
元親は元就の隙を知っても、攻撃を仕掛けてくるどころか槍を構える動作すら見せなかった。

「……何を言い出すかと思えば、くだらぬ事を。
 貴様のせいで興醒めだ…今回はこれで退いてやる」

「なんだよ、もう帰んのか?
 もうちょっとゆっくりしていきゃあいいのによ」

最後まで口数の減らない元親に背を向けると、
元就は兵たちに撤退命令を下し、四国から引き揚げさせた・・・




結局はその戦も痛み分けの形で終わり、元就は四国を制圧できぬままに高松城へと帰還した。

…だがそれ以来、元就は今まで以上に、そして今までとは違う意味で元親を意識するようになってしまった。
あの時の元親の言葉と笑顔を思い出すだけで、どうも調子が狂ってしまうのだ。


自分も、元親と同じくらい自身や周りに素直に接する事ができたなら。
どれほど心が楽になれるだろう?

…最近では気が付くと、そんな風に考えている事すらあった。


しかし一方で、元就にとって『変化』は『恐怖』でしかなかった。

元親に惹かれつつある自分の気持ちを止める事はできなくても、否定する事なら簡単だ。
目を背け、受け入れなければいいのだから。


自分の心境の変化を絶対に認めたくない元就は、自然ともう一度元親と相対するのを拒むようになり、
そしてあの日以来、ずっと四国に手を出せないまま、今に至っていた。


 

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