Cool Blue

□或る雪の日に
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「…今でも雪は嫌いだ。
 ひどく冷てぇし、なにより多くの民を簡単に飢えに追い込んじまう」

政宗は傍らにいる小十郎の方は振り返らず、雪を眺めたまま独り言のように呟いている。

「それに…世の中のいろんなモンを全部真っ白に塗り潰せちまうくせに、
 オレの躯に残る血の痕一つすら消せやしねぇ」

「政宗様…」

・・・政宗が『血の痕』と呼んだもの。
それは政宗が今までに殺めてきた者達の返り血――つまり『死』の事なのだと、小十郎はすぐに察した。

(珍しく弱気な…
 いや、確か前にも一度、同じような事が…)



以前政宗は別の戦で深い傷を受けた時、痛みからくる高熱にうなされた事があった。
その時どんな悪夢を見たのかは医者にすら言わなかったらしいが、
小十郎にだけはこんな言葉を洩らしていた。

『天下獲りなんて大義名分を掲げていても、結局はただの人殺しだ』

そう呟いた時の政宗は本当に苦しそうで、
小十郎は主が二度とそんな苦しみを味わわずに済むように強くならなくては、と気を引き締めたものだ。



(…あれからちったぁ強くなったつもりだったんだが…
 まだまだ精進が足りてねぇって事だな、俺も)

小十郎の表情に静かな苦笑いが浮かんだのは、ほんのわずかの間だけだった。
今はまだ、後悔をしている時でも、していい時でもないのだ。

政宗が渇望している場所――この国の遥か高みに立つ、その時まで。

歩みを止めない政宗を傍らで支え続ける事こそが、
小十郎に与えられた役目であり、そして喜びでもあるのだから。




・・・小十郎が胸の内で決意を改めていると、
不意に一陣の風が吹き、部屋の中へと牡丹雪を数枚舞い散らせた。

それは政宗を動じさせる事はなかったが、小十郎をある事に気付かせた。


政宗の身体は未だ癒えきらない傷のためか、それとも凍えるような寒さのためか、
普段の健康的な血色を失って雪のように白く冷え切っている。


 

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