Cool Blue
□或る雪の日に
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――唯一つの天下を獲るため、数多くの戦が各地で行われていたその時代。
奥州を治める伊達政宗も勢力の一つとして名乗りをあげ、
幾つもの戦に挑んでは華々しく勝利を飾っていた。
…しかし、ある高名な武将との勝負で政宗は勝ちこそしたものの決して浅くはない傷を左肩に受けてしまい、
しばらくは静養を余儀なくされる事となった。
政宗は右手だけでなく左手でも三本もの刀を振るうため、
片腕が使えなければ強さの真価を発揮することが出来ない。
それを自身も理解しているのだろう、普段なら多少の無茶をしては小十郎に見つかって諌められるところだが、
今回ばかりは自重して回復に専念していた。
その間は政宗の代理として小十郎が家臣を取りまとめていたが、
幸いにしてどこかの軍が奥州に攻め入ってくる(つまり政宗が怪我をおして出陣しなければならない)ような事態も起きず、
戦国の最中にあって珍しく平穏とも呼べる時間が流れていた。
・・・そして、政宗の傷もだいぶ癒えたある日の朝。
その日は前日の嵐のような風も収まり、かわりに綿雪が音もなく舞い落ちていた。
時折木々や屋根に積もった雪が滑り落ちる音以外は鳥の鳴き声もなく、
廊下を歩く自分の僅かな足音ですら耳につくほどだ。
(ずいぶんさみぃな…ま、昨日のうるせぇ風に比べりゃ、静かなだけまだマシだが…)
小十郎がそんな事を思いながら、怪我に臥せている主の様子を部屋まで見に行くと、
政宗はすでに目を覚まし、寝床から起き出していた。
「…政宗様?」
政宗は窓のそばに設けられた腰掛けに座り、立てた片膝の上に頬杖をついて、外の景色を眺めていた。
遠くから見れば眠っているのかと思えるほど、その表情は穏やかで、なのにどこか物憂げさも感じさせる。
「朝から雪見とは珍しい。
雪はあまりお好きではないと聞いていましたが…?」
止まない雪は綿のようなその身に周りの音をみんな吸い取ってしまっているのか、
いつもは賑やかなはずの城内も妙に静まり返っている。
その静かさが、政宗を余計に感傷的な気分にさせているのだろうか。
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