Cool Blue

□Words of...?
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――雀の鳴き声が賑やかな、とある日の奥州の朝早く。


長谷堂城の一角の部屋で、城主の伊達政宗は朝から政務に追われていた。

常に先陣で戦の指揮を取り、また自らも『奥州の竜』と畏れられるほどの強さを誇る政宗は、
国政を執らせても非常に有能で、退屈な書類仕事にも不平を言わず、いつも真剣に取り組んでいる。

普通なら見るだけで嫌気がさしそうなほど分厚い紙の束に丹念に目を通していると、ふと『甲斐』の文字が目についた。


(甲斐…か。
 そういや最近、顔を見てねぇよな…)

政宗が甲斐を思い浮かべる時、まず真っ先に脳裏を過ぎるのは、
『甲斐の虎』という異名を持つ上田城城主の武田信玄ではなく、その配下の武将の一人、真田幸村だった。


(真田…幸村…)


実をいえば、政宗と幸村はただのライバル同士、という間柄ではない。
幾度となく刃を交えるうちに、互いの存在に強く惹かれあうようになっていたのだ。

そして今では、単にライバルと呼ぶだけでは済まされないほど、もっと濃密な関係に身を置いている。


(…積極的なわりに全然素直じゃねぇんだよな。
 反応がバカ正直な分、それはそれでオモシレェんだが…)

いつも政宗が幸村に強引に迫り、幸村は表面上はそれを拒む、というのが、
深い仲に落ちてからの二人のスタイルになっていた。
『表面上』というのは、幸村も本心では政宗を嫌うどころか、誰よりも愛しいとさえ感じているからだ。

…だが、いつの間にか定着してしまったそのスタイルが邪魔をして、
政宗はいつも言葉も行動も与えてばかりなのに、幸村からは未だに「好き」の一言すら受け取った事がなかった。


言葉なんて必要のない愛情も世の中にはあるのだろうし、
自分たちの抱くそれも、言葉に頼らなければならないほど軟弱なものではないと本当はちゃんとわかっている。

それでもやはり、言葉でなければ伝わらないものもあると政宗は思っていた。


(…次に会った時は、少し思い知らせてやった方がいいのかもな。
 オレだって無欲じゃねぇって事を)


政宗はそう結論づけると、それきりで幸村の事は頭の中から追い払い、
再び集中力を目の前の書類へと戻した。






・・・ちょうど同じ頃、当の真田幸村はというと、単騎で馬を駆けさせていた。
目指すは一路、奥州は伊達政宗の住まう長谷堂城へ――・・・


 

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