Cool Blue
□Strawberry on the Shortcake W
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学校での調理実習を終えた休み時間、幸村は小さな袋を手に政宗の姿を捜していた。
調理実習が終わったばかりの幸村は、いつも自身の壊滅的な料理センスのなさに意気消沈している事が多いのだが、
今日は珍しく嬉しそうな表情をしている。
それもそのはずで、今回の課題は『ドーナツ』だったのだが、揚げ物や炒め物はもれなく焦がしてしまう幸村にしては奇跡的というべきか、とてもキレイに揚がっていた。
(このドーナツ、政宗殿は喜んでくださるだろうか…?)
ドーナツがうまく作れたと知った時から、幸村は政宗に渡す事ばかり考えていた。
最近の幸村と政宗の関係は、とても微妙なモノだった。
今の二人には、『友達以上、恋人未満』という言葉がピッタリと当てはまるだろう。
恋愛に疎くて奥手な幸村は、政宗に対して「好き」というアピールをなかなか出来ずにいた。
政宗もそんな幸村を急かす事なく歩調を合わせていたため、互いの気持ちを感じていながらも『恋人』には踏み込めない、そんな日常が続いていたのだ。
(たとえ褒められずとも…政宗殿が少しでも喜んでくだされば、某は…それだけで…)
期待に胸を膨らませながら隣のクラスまで歩いてくると、
政宗が自分と同じクラスの女子に声をかけられているのが見えた。
その手には、初めから政宗に渡すつもりで用意していたのか、簡単ながら可愛らしくラッピングされたドーナツがのせられている。
調理実習で作ったものなら、より自然に手作りの菓子を渡せると考えたのだろう。
(……!)
先客がいると知った幸村は、つい政宗に見つからないようにと柱の陰に隠れてしまった。
「…へぇ。美味そうだな」
好意的な反応をみせる政宗に、女生徒も嬉しそうに笑っていたが、政宗はその笑顔を残念そうに曇らせてしまう。
「でもオレ、甘いドーナツはあんまり好きじゃねぇんだよ。
だから、悪ィけど…」
(…そんな…)
その一言を聞いただけで、もうそれ以上幸村に政宗を待つ必要はなくなってしまった。
隠れていた柱に背を向けると、一目散に走り出して今度は人気のない廊下の角に隠れてしまう。
(政宗殿はドーナツが苦手だったとは…
そのような事も知らず、某は…少し出来が良かったからと、それだけで浮かれて…)
一度思考が暗い方向へとすすんでしまうと、それに呑まれた幸村はどんどん落ち込む事ばかりを考えてしまう。
(某は、政宗殿の事を少しは知っていたつもりなのに…未だ好き嫌いのひとつも知らぬのだな…)
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