Cool Blue

□コ ト ノ ハ 。
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   * * *


甲斐、上田城。

先の戦による怪我で安静を必要とする政宗からの命を受け、代理として上田城の信玄に謁見を願い出た小十郎は、午後からの長い会談を終えて屋敷の廊下を歩いていた。

「………」

「………」

幾つかの角を曲がったところで聞き覚えのある二人分の声が耳に届き、小十郎は足を止めた。

あてがわれた部屋のある方ではなく声のする側へと廊下を進んでみると、幸村と佐助が広い中庭の真ん中で立ち話に興じている。

(…そういえば、真田にも政宗様からの託けがあったっけな)

こちらに背を向ける幸村は今まで稽古をしていたのだろう、その手には木槍を携えていた。
佐助も防具を省いた身軽な装束で、両手を頭の後ろに組んでいる。

二人とは少し距離があるので、洩れ聴こえてくる声だけでは内容まで把握する事はできないが、なにか冗談を言い合っているのか、時折二人で愉快そうな笑い声を立てていた。

その佐助の楽しそうな表情が、小十郎を不意に一つの事実に気づかせる。

(…真田の前じゃ、あんな風に笑う事もあるんだな)

あんなにも自然で楽しさが伝わってくるような佐助の笑顔は、小十郎の記憶にないものだった。
それは長年共にいて気心の知れた幸村の前だからこそ、無意識に表れるものなのだろう。

「………」

「………。あ」

偶然佐助と視線があってしまった小十郎は覗き見のような自分の行為に気づいて身を引こうとしたが、
その前に佐助が小さく手を振って小十郎に合図をすると、幸村と数言交わして会話を切りあげ、走り寄ってきた。

その背後で幸村が軽く会釈をし、小十郎もそれを返すと、幸村はそのまま何も言わずに背を向けて歩み去っていった。

「お疲れ様、片倉さん。
 大将との会談はうまくいった?」

「あぁ。もう少し難航するかと思っていたが…これで半分は肩の荷が降りたってとこだな」

「そっか、良かった。
 じゃ、せっかく上田まで来てくれたんだし、たまには俺が片倉さんの苦労をねぎらってあげるよ」

やけに好意的な佐助の提案に、小十郎はつい素直に頷けずに訊き返してしまう。


 

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