Cool Blue

□良薬は口に苦く、適薬は唇に甘い -戦国編-
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(…そりゃあさ、いくら忍でも生身の人間には変わりないんだから。
 戦えば怪我だってするし、たまには風邪をひく事もあるっての)

フラフラと熱に浮ついた頭を枕に埋め、佐助は先程目覚めてからずっと言い訳じみた事ばかり考えていた。

部屋の中は薄暗くひんやりとしているが、横を向けば視線の先では爽やかな朝の陽光が秋の庭を照らしている。

そのまま視線を巡らせれば枕元には佐助の忍装束と甲冑が置かれ、さらにその上には封緘されたままの書束が乗せられていた。

(…相変わらず律儀だなぁ、ホント…)

再び視線を庭に戻すと、陽光を遮るように廊下に人影が佇み、佐助を見下ろしていた。

「ようやく起きたのか、猿飛?」

「…やっぱり此処に来て良かったよ。
 片倉さんなら俺の事、助けてくれると思ってた」

部屋に足を踏み入れた小十郎は、粥と水差しが乗せられた膳と水桶を置いて佐助の枕元に座った。
水桶の中では、いくつかの小ぶりな氷柱が涼しげに浮かんでいる。

「お前がただの『甲斐の忍』から『猿飛』になっていなければ、あのまま野垂れ死にさせていたところだがな」

「…そういう笑えない冗談言うの、やめてくんない?」

上体を起こした佐助は冷汗が似合いそうな表情でそう呟いたが、二人の間には厳しい言葉とは裏腹に親しげな雰囲気が満ちている。

だが、本来なら敵同士である二人が敵意も打算もない間柄になるには、もちろんそれなりの事情があった。


現在甲斐と奥州の間には同盟を結ぼうという水面下の動きがあり、その使者として目立たずに動ける佐助が何度も奥州に遣わされていた。

その際佐助が滞在する場所として、小十郎が自分の屋敷に部屋を提供したのだ。

小十郎としては隠密行動に長けた佐助を常に目の届く場所に置いておけるし、佐助も小十郎の作る美味い手料理を好きなだけ食べられるため、互いに不満が出るはずもない。

そして最初は『仕事上の付き合い』として一定の距離を置いていた二人だったが、共に過ごす時間と会話が増えてゆくほどにその距離は近づいてゆき、
今ではこうして冗談を言い合えるような親しい仲となっていたのだ。


・・・もっとも、佐助と小十郎では互いに対して抱いている感情の種類がかなり違っていたのたが。


 

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