Cool Blue

□夏の雲と手のひらの竜
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そろそろ八月も過ぎ去ろうかという、とある日。
別命があった佐助も連れて奥州を訪れている幸村は、政宗と並んで広い屋敷の縁側に佇み、吹き抜ける風で涼んでいた。


濃緑に映える夏の花がまだ美しく庭を飾り、澄んだ青空にはくっきりとした輪郭の入道雲が夏の名残のように浮かんでいる。

その雲をじっと眺めていた幸村が、突然こんな感想を洩らした。

「あれは…なんという美味そうな雲であろうか…」

「美味そう?
 …あの雲が、か?」

いかにもけだるげに団扇をあおぎながら政宗が訊くと、幸村は雲を見つめたまま大きく頷いた。

「見るからにふわふわしていて、ちぎって口に入れたらとろけてしまいそうな…そんな菓子を一度は食してみたいものでござる」

(雲みたいな菓子、か…
 いかにも幸村らしい、食い意地のはった発想だな)

普段なら政宗が呆れて苦笑するだけで終わってしまうような、何気ないやり取りだったのだが…
政宗はふいに団扇をあおぐ手を止め、思案顔で雲を見つめると、口許を苦笑いではなく閃きの微笑みで満たした。

「いいぜ、ならその『雲みたいな菓子』をオレが作ってやるよ」

「それは真でござるかっ!?」

まさかの提案に驚いた幸村が政宗を見つめ返すと、政宗はすでに菓子の調理法までしっかりと見通しがたっているのか、余裕の雰囲気すら漂わせて頷いた。

「男に二言はねぇよ。
 ちょいと心当たりもある事だしな」

政宗はそう言ってからニヤリと笑うと、隣に座る幸村の肩を抱き寄せ、耳元に口づけるようにして囁いた。

「その代わり…『礼』はしっかりといただくぜ?」

「し…承知した…」

今までにも政宗に『礼』を求められた経験のある幸村は、思い出してしまっただけで頬を赤らめ、わずかに頷き返した。



   * * *


政宗と約束を交わした、その翌日。


政宗は朝餉の後すぐに調理場にこもりきりになって菓子づくりに取りかかり、幸村は一人で暇を持て余していた。


 

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