Cool Blue 2nd
□しろとらさくら
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後に戦国と称される時代も幾年かが過ぎた、或る春の日。
奥州と甲斐が同盟を組む事になり、幸村は大将として何度も奥州に招かれては政宗と協議の席を設けていたのだが、
今日は協議を終えた後、政宗から屋敷の一室での花見に誘われていた。
「良い時に来たな。今ちょうど庭の桜が満開なんだ、花見ついでにゆっくりしていけ」
障子が開け放たれた先に広がる庭には、白い桜が雪のように枝に積もり、柔らかな一片を風に舞わせている。
「これはまた、なんと見事な…」
「幸村。ちょっと来てみろ」
政宗に連れられて庭に降りると、桜はあまり見たことのない変わった姿をしていた。
主幹から太く伸びた枝に短い枝が幾つもつき、目に鮮やかな新緑の葉と共に八重の花がぎっしりと咲き誇っている。
政宗はその一枝に手を添えると、凛とした咲き姿に口元を綻ばせた。
「この桜、知ってるか?
京から取り寄せた桜でな、『虎の尾』っていうんだ」
「なんと…風流な名前でござるな」
「枝に添うように固まって咲くこの姿が虎の尾に見えるってんだが…
どうだ、お前の尾と似てるか?」
「…甲斐の虎は皆紅虎ゆえ、某に白尾など生えておりませぬ」
「相変わらず、真面目で的外れな答えだな」
ならお前には紅い尾が生えてんのかよ、と政宗が笑った。
その打ち解けた柔らかな表情に、幸村の心が甘くくすぐられる。
初めて出逢ってから幾度と刃を交え会話を重ね、そのうちに二人はこんな親しい距離にまで近づいてしまった。
今では好敵手として、同盟相手として――そして幸村は政宗に対して、それ以上の感情さえも抱くようになっていた。
今も幸村は桜というよりも、その枝を挟んだ向かいに立つ政宗を見つめている。
「どうした、幸村?」
「いや…政宗殿の手には六爪は勿論、桜もよく似合いまするな」
「そういう口説き文句は女にしてやれよ。男にしたって喜ばねぇぜ」
「某は未だ武の道に邁進すべき未熟な身なれば…女子相手の色事などに興味はありませぬ」
「それっぽく理由をつけちゃいるが、お前は恋愛には殊の外疎そうだもんな。
女の前じゃ緊張して世辞のひとつも言えねぇか?」
「そうではなく…」
幸村は言葉を濁したが、その先を勝手に捏造しながら想像した政宗がさらに上から言葉を重ねてくる。
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