Cool Blue
□コ ト ノ ハ 。
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「別に…考え事ってほどのモンでもねぇんだが。
さっき、真田と一緒にいただろう」
「うん。それで?」
「俺の前じゃ、あんな風に笑った事がねぇな…そう思ってたんだ」
小十郎は何気なく言ったつもりなのだが、佐助が驚きに瞳を丸くするのを見て、「やはり明かすんじゃなかった」と早速後悔した。
「…片倉さんって、意外とそういう細かい事を気にするんだ?」
「あぁ、どうもそうらしい。
…俺も、自分がこんな女々しい男だと思いたくはなかったんだがな」
(…って事はもしかして、さっき中庭で旦那に声をかけなかったのって…)
本当は託けを忘れていたのではなく、幸村に少し妬いていたのだろうか、と佐助は思ったりもしたのだが、それを小十郎に確認したりはしなかった。
「片倉さんは真田の旦那と同じ場所には絶対立てないよ。
一緒にいた時間も作り上げてきた絆も全然違うんだからさ」
「…そうだな」
佐助とはある程度似た境遇にある小十郎も、それは当然だと理解していた。
だがわかっていた事とはいえ、こうして真っ向から否定されると少し複雑な気分にも陥ってしまう。
「…だけどそれって、裏を返せば真田の旦那も絶対片倉さんにはなれないって事なんだけどね」
佐助は隣からの視線を感じながらもあえて小十郎の方は向かなかったが、少し照れた笑顔がその口元を覆っていた。
「だって、俺が惚れてんのは旦那じゃなくて片倉さんだからさ。
それに俺、旦那や大将にも見せた事のない顔ってのを片倉さんにはけっこう見せてるつもりなんだけど?」
「ほぅ。例えばどんな顔だ?」
「それは…それくらい、自分で考えてよね」
佐助は急にそっけない言い方をしたが、自分からは教えられない理由を小十郎もちゃんと理解していた。
(…確かにそうだ。
『抱かれて喘いでる顔』は俺しか知らねぇわけだしな)
真田幸村よりもはるかに短い時間しか共に過ごしていないのに、その幸村ですら知らない『猿飛佐助』を幾つも知っている。
その揺るぎない事実は、小十郎にも少なくない満足感を与えてくれた。
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