金色のコルダ
□君の音色が聴きたくて
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「ふぁあ…」
あれから海が見える芝生の上で加地とたわいもない話を交わし、二人だけの時間を共有した。
学校生活のこと。
音楽のこと。
それから休日の過ごし方まで、気づけば話が別の話を呼び時間の経過すら忘れてしまっていた。
「日野さん、もしかして眠いの?」
「あ…ううん、ごめんね。加地くんと話しているのが退屈とかじゃなくて、昨日譜読みしてたら寝るのが遅くなっちゃって少し寝不足で…」
彼の唐突な言葉に慌てて両手を胸の前まであげ、弁解の言葉を口にしては情け無さそうに頬を緩めて笑う。
その言葉を聞いて空を見上げると、加地はそのまま暖かな芝生の上にごろりと仰向けに横たわった。その姿に香穂子は意表をつかれて目を丸くし、唖然として目の前に寝転がる彼を見下ろした。
「ほら、日野さんも」
「え…?」
ぽんぽん、と隣の芝生を叩かれて、香穂子は更に唖然としてしまう。
それは自分にも隣に寝転がれ、ということなのだろうか?
「ここ寝転がると結構気持ちいいよ。陽射しも強くないし、ひなたぼっこするには最適な場所」
「加地くん…」
確か父親が代議士で、育ちがいいと周囲の噂で聞いていた。
立ち居振る舞いもどこか柚木と似たところが多々あって、けれどとても育ちのいいお坊ちゃまのイメージとはかけ離れたその姿に香穂子はどうしても戸惑ってしまう。こういうのはどちらかといえば土浦や火原のイメージ、志水も例外ではないけれど。
「でも加地くん、お昼寝なんてしてたら練習が……きゃあっ!?」
「日野さんここのところ朝も昼も放課後も練習漬けだったよね。だから今だけは休息。大丈夫だよ、まだ陽が傾きかけたばかりだし、ほんの十分身体を休めるくらい」
「か、加地くん…」
有無を言わせない彼の強引さは今に始まったことではないけれど、こうして抱き竦められるように引き寄せられると四肢どころか指の一本も動かせなくなってしまう。土浦並の身長がある、加地の広く大きな胸。その中にすっぽりと抱かれたまま、香穂子は身動きがとれずに真っ赤な顔で俯き縮こまっていた。
「今はほんの少しでも眠って身体を休めて、それから僕に聞かせてよ。日野さんのヴァイオリンを」
愛おしげにすぐそばにある彼女の髪を見下ろしながら、加地がぽつりと呟く。
腕の中にある、彼女の温もり。
せめて今だけは僕だけの為に君の音色を奏でて欲しい。そんな思いを抱きながら…――
Fin..