金色のコルダ

□在り処
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―………。





……なに?
誰かが私を呼んでる…――。





カツン、と歩く度に足元で鳴り響く冷たい廊下の向こう。
薄く開かれた扉の隙間から、まばゆい光が溢れてる。


……ここ?
私を呼んでいる、“貴方”はこの向こうにいるの…――?







「Merry Christmas!!」



両手で大きく開け放った扉の向こうの溢れる光の中、クラッカーの音と共に幸福に満ちた声が沸き上がる。
私が突然の出来事に小さく悲鳴をあげ眩しげに目を細めて正面を見据えると、徐々に光に慣れてきた視界に見知った人の顔が浮かび上がった。

「メリークリスマス、日野ちゃん!」
「……火原先輩?」

私の目の前に現れたのは、見慣れない白のタキシードに身を包んだ正装姿の火原先輩だった。

「…ったく、遅っせぇぞ日野。お前が一番最後。折角の料理が冷めちまうだろうが」
「またまたー。そんなこと言って、土浦だって日野ちゃんのこと心配してたくせによく言うよ」
「な…っ火原先輩、それは言わない約束…!」
「あの…こんばんは、先輩」
「よかった、先輩も来てくれたんですね。僕、先輩となにをして過ごそうかなって、ずっと考えてたんです」

土浦くん、冬海ちゃん、志水くん…。

「いつまでそんなところに立ち尽くしてるつもりだ?これじゃいつまでたってもパーティーを始められないだろう」
「月森くんまで…」

私を出迎えてくれたみんながみんな、普段の制服姿でもコンサート衣装でもなく、各々が華やかなドレスやらスーツに身を包んでいる。


一体ここはどこなんだろう?
クリスマスという今日この日を盛り上げる為に、赤や金や緑などの色鮮やかな装飾が目を引く内装。その中央には主役の大きなもみの木が、イルミネーションを纏い綺麗に光り輝いている。そしてもみの木の下には沢山のプレゼントと、その傍らにはもみの木に負けず劣らずの存在感ある大きなグランドピアノがひとつ。

「いきなり驚かせちゃってごめんね。日野ちゃんが到着するの、いてもたってもいられなくてさ」
「日野、七面鳥切り分けるけどお前も食うだろ?まさかもうお腹いっぱいですとか言わないよな」
「食べるより先にシャンパンを開ける方が先だろう。食事は乾杯の後だ」
「先輩、このケーキすごく大きくておいしそうですね」
「日野先輩。お腹がいっぱいになって眠くなる前に、僕と一緒に演奏しませんか?僕、先輩のヴァイオリンと合わせたいんです」

ドレス姿の私を囲うようにして、みんなが口々に言葉を紡ぐ。
火原先輩も土浦くんもみんなその表情は穏やかで、この空間は幸福に満ちていてとても心地よかった。

けど…



「……あれ?」

私は不意に、この空間に違和感を覚えた。
コンクール参加者の面々が顔を揃えている。けれど、なにか物足りない。

でも私にはその違和感の理由がなんなのか、ない頭を捻ってもどうしても思い出すことができなかった。


「はい、日野ちゃんのグラス」
「あ、ありがとうございます。火原先輩」
「よーし、全員揃ったな。それじゃ乾杯!」
「乾杯ー!!」

軽やかな音を立てて重なり合うシャンパングラスの音。

……全員?
ううん、違う。ここにはもう一人誰か……そう、大切な誰かがいる筈なのに…――







「……ん…。…野…さん…」

「…ん…。うんんん……」


誰かが私を呼んでる…――。

そう。欠けていたのは、あの輪の中にいなかったのはこの人だ。他でもない、私を呼ぶこの声の…
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