奪還屋 小説

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「まぁ、何周年になったかはわからんが…今日はおもいっきり飲み食いしてくれ」

あまりにも思う存分飲み食いされたらかなり痛いんだけどな、というマスターの言葉を聞いたヤツは多分俺くらいしかいないだろう
こうして、HONKY-T0NKの何周年かわからなあパーティーが始まった


-Party-


一気に場の空気が変わり…
アルバイトの2人と銀次以外は、食うというよりは呑む方が中心だった
全く、いくらパーティーだとしても…もう少し落ち着いて呑めないものなんだろうか
ビール瓶片手に歩き回ってるヤツとか、仲介屋にセクハラしようとしてるヤツとか、ビール呑んでたかと思えばいつの間にか焼酎に手ぇ出してるヤツとか…

…ご察しの通り、完全に美堂を目で追っているわけなんだが

無意識で追っていたことに気付き、一気に恥ずかしくなって持っているコップに入っていたビールを一気に呑み干した

このパーティーが始まってから、俺と美堂は一言も話していない
というか、こうして集まって呑むときは誰かに何かを言われない限り話さない
…大体、喧嘩になるからな

あぁ、あれで何杯目なんだろうか
アイツ、まだ未成年だよな?
誰も止めようとはしない…止めたって呑むだろうから、周りはもう諦めているのだろう
俺もわかっているから、あえて何も言わずに、たまに花月と話す程度で静かに呑んでいた


******


始まってから何時間が過ぎたんだろうか
最初は食べるのが中心だった銀次もいつの間にか呑んでいたて、周りの人間達はもう完全に出来上がってしまっていた
そして、ハイペースで飛ばしていた美堂はというと…さっきまで騒いでたくせに、今ではカウンター席の俺の隣で伏せていた
…相当酒が回ってしまったらしい

「呑みすぎなんじゃねーか?」

今日、初めて声をかけたら…小さい声で

「うるせー…」

と、一言
いつもだったらもっとギャーギヤー騒ぐくせに、それだけしか言わなかった
…かなりしんどいらしい

「外の空気でも吸いに行くか?」

少しは楽になるかもしれねーぞ、と言うと

「おー…」

と返し、フラフラと立ち上がった
さっと手を差し延べて、支えてやる
誰かに言ってから行こうと思ったが…一番マトモであろう花月もアルバイト2人組に捕まっていたし、マスターも仲介屋と会話しながら楽しそうに呑んでいた
…邪魔をするわけにもいかず、そのまま静かに店内をあとにした


******


近くの公園のベンチに座らせて、俺は自販機で水を買ってきた
外の空気を吸って少し楽になったのか、月をジーッと見てる美堂がいた

「…ほら、水飲め」

そう言って差し出したら

「いらない、飲めない、飲ませろー」

あははは、と笑いながら言われた
…さっきまであんなにしんどそうにしてたくせに、回復早過ぎんだろ
ふぅ、と溜め息を吐いて、キャップに手をかけたら

「もちろん口移しでなー」

と、言われた
…今、確実に時間止まった、マジで

「テメッ、なにアホなこと」

はっ、と我に返り
ようやく時間が動き出してなんとか言葉を返すが…きっと顔が赤い
…今が夜で本当に良かったと思う

「いーじゃねーか、誰もいねぇしー」

へらへら笑いながら言うから、ぜってぇ冗談
わかっているのに、何故足は美堂の方に向かっているのか
何故隣に座ろうとしているのか
わからないまま隣に座り、キャップを開けたら

「おいおい、冗談に決まってんだろー」

そう言いながら笑い出し
自分で飲むから渡せー、と言う美堂に

「…っ……?!」

口移しで水を飲ませた

「なにすっ…」

口元を押さえて言うから

「…誘ったのは、テメェだろ」

と、平然と返してやった

…違う、嘘だ
本当は自分でも信じられないくらい、心臓が有り得ないほどの音を出していた

それをわざと伝えるかのように、俺は美堂を抱きしめた

「…なに、酔ってんの?」

と、静かに言われたから

"強いて言うならお前に酔ってるよ"

なんて言えるわけがないから

「お前ほどじゃねぇけどな…」

そう言って

今度は水なしで、キスをした

例え、帰ってから話すことが少なくなろうとも
話をしても喧嘩ばかりだとしても

俺はお前とこういうゆっくりとした時間を過ごせている

それだけで…幸せなんだ

そう、例え

戻ってから勝手に抜け出したことを責められようとも…な…

END
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