狗狼綺譚 -琥珀と真紅の想い-
□第2話 謎は謎のまま -護衛と監視-
1ページ/4ページ
未だ晴れない霧の中、謎の女を抱えて走る姉ちゃんの足は、止まるどころか速くなる一方だった。
早朝で人気もないおかげで、見咎められることもなく病院へ飛び込む。
緊急窓口で手短に説明すると、徐々に慌ただしくなっていった。
そんな中、オレは何をするでもなく、処置室の壁際でボケッとその様子を眺めていた。
だって・・・することなんてねぇだろ?
―――アイツ・・・助かんのかな?
赤丸が言った事が本当で、アイツ=狼なら、かなりの出血のはずだ。
くるんでたオレのバスタオルも真っ赤っ赤だったし、うずくまってた場所にあった血溜まりも結構な大きさだったから。
オレたちの鼻が利かなくなる寸前の濃さの血の匂いからしても、かなりヤベェんじゃねえ?
着々と処置が進められる中、そんな事をぼんやり考えていたら、ドアを大きく開けて五代目が入って来た。
「正体不明の怪我人はコイツか?」
「はい!」
「状態は?意識はどうなんだい?」
「かなりの出血だったらしく、輸血をしていますが・・・予断を許せません。怪我も切り傷ではなく、何かに噛み千切られたような跡ばかりで縫合も出来ないんです」
「噛み千切られた!?いったい何に?」
「狼だよ」
「キバ・・・何故知っている?」
何気なく口を挟むと、五代目は初めて気づいたかのようにオレを見る。
「オレと赤丸が見つけたんですよ、そいつ」
「どこに居たと言うんだ?」
「うちの裏の森ん中で。赤丸が変な気配がするって言うから、見に言ったんす。そしたら5匹の狼がいて・・・」
家に連れ帰るまでの顛末を簡単に説明し、赤丸が言った台詞を言おうとしたら、五代目に遮られる。
治療が続けられている様子を見て五代目は、何故か人気の無い所へオレを連れ出した。
.