Treasure

□満ちない夢と黒猫と歯ブラシ
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- a feeling of gratitude -




「ありがとう…」

「…ああ」

「でも、ただの一日だよ?昨日とも明日とも何も変わらない」

「んな事ねぇって」



目の前の真っ白なお皿に乗せられたティラミスを、銀のフォークでつつきながら

斜め前に座っているシカマルを見上げると



「365日の内で一番大切な一日だっつうの」



鋭い瞳を何時もより更に細めた、優しい表情が目に入って

何故だか胸の奥がきゅっ、と音を立てるように小さく軋んだ。



軽く歪められ孤を描く口許から目が離せなくて

今にも笑みが零れ出しそうな薄い唇に、つい触れてみたくなる。



――シカマルってやっぱり顔の造りが繊細で、じっと見てるとすごくキレイ…





「どうした…ぼーっとして」

「……何でも、ない」



まだ湯気を立てているコーヒーを飲んで、少し気分を落ち着かせようと

カップへ向かって伸ばした左手は、不意にシカマルの綺麗な掌に包まれて



「な、なに?」

「付いてんぞ…唇の端」



くくっ、と喉の奥を鳴らして余裕たっぷりに笑うシカマルに見惚れていたら

すらりと伸びた長い指が私の顔にそっと触れた。



「……お前って、子供みてぇなとこあんのな」

「……っ!!」



頬を撫でた親指を、ぺろりと舐め取るシカマルの舌の動きが

妙に官能的で艶やかに見えて、ざわざわと胸が騒ぐ。



微かに火照る顔を隠すように少し俯いたら、ぽんっと軽く頭を撫でられて

触れられた部分に一気に神経が集中し、ますます熱くなるように思えた。





「ところでさ、お前って…猫スキ?」



何気なく体勢を変えたシカマルに、後ろからそっと抱き締められて

耳元に注がれる声は、頭の芯を溶かしてしまいそうに甘く嗄れている。



シカマルの胸に触れている背中から、伝わる穏やかな鼓動が



――心地良くって、なんだかホントに蕩けちゃいそう…





「え、猫?…うん、別に嫌いじゃない」



けど、なんで?と、問いかけながら首を後ろに捻って顔を上げると

さっきよりももっと目を細めて、愛しくて堪らない存在を見つめるような

この上なく優しいシカマルの視線に捕まった。





――シカマルがいてくれれば、他には何も要らない…



幸せで鳥肌が立ちそうなほどの息苦しさに、胸が震えて

勝手に抜けて行く身体の力に任せ、そっと背中をシカマルに委ねる。



私の腰に回されたシカマルの腕には、ほんの少しだけ力が込められて

その緩やかな締め付けが、まるで今の幸せの象徴に思えた。





自然に弛む頬の筋肉に逆らわず、笑顔のままでシカマルの肩に頭を預けると

私の肩に乗っていたシャープな顎が少しだけ動いて



シカマルの薄い唇が、私の口の端を掠めた。



「ほら、ここ。まだ付いてっから、」

「……?(あ、ケーキ)」

「鏡見て来いよ?」



シカマルの声に背中を押されるように、フォークを置いて立ち上がると

口元に軽く手を当てながら、洗面所へ向かった。






――どこ…?何にも付いてない、けど。



ミラーの向こうに映る自分の顔を覗き込みながら、首を捻っていると

鏡の脇のキレイなコップと、無造作に置かれた物が目に入る。



――もしかして、これを見せたかったの?



とくん、と胸が踊る。





――ミャー



小さな鳴き声に視線を彷徨わせたら

子猫を抱いたシカマルが、洗面所のドアを片手で押さえて

私の挙動を入口で見守っていた。



「気に入った…?」

「うん…これ私の、だよね?」

「たりめーだろ、他に誰がいんだよ?」





寄り添って二つ並んだ歯ブラシが、幸せな微笑みを誘い

私たちは見つめ合うと、互いに引き寄せられるように唇を重ねる。



目の前の大きなミラーの中で、頭ひとつ分上にあるシカマルの顔が

少しずつ傾ぎながら近付いて

溢れ出した濃密な空気に眩暈がした。



やわらかく瞳を閉じたまま、うなじにキスをするシカマルに



――その表情も癖も、大好き…



すぐにでも、食べられてしまいたい気分になる。





子猫をそっと床に下ろすと、シカマルは再び私を背中から抱き締めて

鏡越しに視線を絡めながら、耳朶に触れる距離で囁いた。







(今日から一緒に暮らさねぇ?)










fin


[満ちない夢と黒猫と歯ブラシ]
*奈良シカマル*



お誕生日を祝ってくださった方々へ…
ささやかなお礼の気持ちです。

もしもお気に召して下さったら、どうぞお持ち帰り下さい!!

みゅうさま、棗さま、天姫さま、羅刹さま、素子さま、雄飛さま
guricoさま、エコさま、もちこさま、冬彩さま、乙葉さま
もみじさま、アサミさま、ナツさま、海さま!!!

本当にありがとうございました☆

これからの一年も、どうぞよろしくお願いします。

2008.06.05 mims




-管理人*アトガキ-
【mon amour,nara】のmims様より、お誕生日祝い夢の御礼としていただきました♪
誕生日を祝ってくれるシカマルに留まらず、子猫(しかも黒猫!!)を抱いてるなんて・・・ツボったぁ〜〜〜っo(≧▽≦)o
更にドアに寄りかかってこっちを見てる!?
もう鼻血&吐血でクラクラしちゃいました(涙)
お祝いしてあげたはずなのに、こんな素敵なお話いただいてしまって・・・本当にありがとうねっvv

ここまで読んで下さったお客様も、ありがとうございました!
ご感想はぜひ、mon amour,naraのmims様へお願い致します!

2008.6.5 by.amaki

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