きっと、それは魅入ってはいけないものであると私の第六感は悟っていたのです。 しかし、私は夜のとばりを縫うように寮のベッドから抜け出し、その魅入ってはいけないものの前に座ります。 私は既にその魅入ってはいけないものの虜でありました。既にどうしようもなく、それに魅せられていたのです。 朝も昼も夜も、考えるのは魅入ってはいけないものの事ばかり。 しかし、もしも周りに気付かれて魅入ってはいけないものをどこかに隠されて――もしくは壊されてしまうとすると堪りません。 ですから、授業もいつも通りに受け、人付き合いもいつも通りに振る舞うようにしました。 「何を、しているの」 唐突に響いた声にハッとしました。それ程私が魅入ってはいけないものに魅せられていたのか、声の主がとても背後をとるのに優れていたのかは分かりません。 私は渋々視線を背後に移し、声の主を見上げました。 「リーマス、君には何が見えているかしら」 「何も――君と僕しか映っちゃいないじゃないか」 「――そう」 私は少し落胆した思いで彼から視線を外し、魅入ってはいけないものに視線を戻しました。 ああ、なんて素敵なのでしょう。 「君には、何が……」 彼の声は掠れていて、満月の次の日のように弱々しい声でありました。 答える必要は無いように思いましたが、ふっと彼になら打ち明けても良いような気が湧き上がったので、もう一度だけ彼へ視線を寄越しました。 「わらっているんですよ」 「?」 思い出してはうっとりとした気持ちで、彼に告げました。 「死に神が、笑っているんです」 081130(魅入ってはいけないかがみ) |