鋼
□なんとなく
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なんとなく。
なんとなくなんだけど今日は特別な日。
__なんとなく__
「あ」
「どうしたの、兄さん」
不思議そうな弟の声に慌てて首を振る。
「なんでもねぇよ」
ああ、だけど。
気付いてしまった。
くだらないことなのに、一回気付くといてもたってもいられない。逸らした目線をちろり。
逸らしてまたちろり。
ああ、だめだ。
やっぱり見てしまうカレンダー。彼と何の関係もないのに、自分にとって特別な日になってしまった気がして。
「兄さん、次は南の方に行くんだよね」
ハイビスカスとか咲いてるかな〜なんて言ってる弟に。
「アル」
投げ渡すのは南に向かう理由となった一冊の希少本。
「先に駅行ってろ」
え?なんでだよ、兄さん
すみません、それは言えません。
後ろで叫んでる弟を残して俺は駆け出した。