頂き物
□ほら、好きだって言って。
1ページ/4ページ
むせ返る程、甘ったるいそれ。
ほら、好きだって言って。
紅葉が風に舞う、少し肌寒い季節。
「寒…っ」
「だから言ったじゃないですか」
数十分前の記憶が悟浄の脳裏にありありと思い浮かぶ。
買い出しに付き合わされるのはいつものこと。ただし、今日は寒いからと手渡されたマフラーを断ったのは失敗だった。
寒さに背中を若干丸めつつ、ポケットに手を入れて歩く悟浄の腕には、もちろん大量の袋。ネギが覗いているのはご愛嬌。
それに比べて八戒は、マフラーをしっかり巻いているし、荷物は悟浄より明かに少ない。メモ用紙を片手に買い忘れたものがないか確かめている。
記憶とメモを合わせつつ、八戒はしばし思考に耽る。
そして、「あ」と何かに気付いた。
「ん?なんか買い忘れたもんあったか?」
「はい。悟浄、ここでちょっと待ってて下さい。」
はい、と自分の荷物を悟浄に手渡すと、八戒はパタパタと店に駆け込んでいった。
数分後に走って戻ってきた八戒の手には、小さな袋。
「なに、それ」
「たいしたものじゃないです」
「ふぅん…」
対して気にもせずに、悟浄は吸っていた煙草を靴底で揉み消して、携帯灰皿に入れる。そして、重たい荷物をよいしょと持ち上げた。
先ほど八戒が持っていた荷物も、まとめて。
「…持ちますよ?流石に重いでしょう」
「俺、こーみえても力持ちよ?」
と言いながらも、少し足元が覚束ない。八戒は黙って、自分の分の荷物をひょいっと持ち上げた。
「貴方の細すぎる腕の、どこにそんな力があるんですか」
悟浄なりの不器用な優しさに頬が緩むのを感じながら、八戒は悟浄より一歩先を行く。
目指すのは、三蔵と悟空が待つ宿。買い物が終了次第、出発する予定だった。
ただし、予定通りにいかないのが、予定というものだ。