キリリクU

□cold
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前にも一度だけ発熱を起こして倒れたことがある。
家にきて間もない時で兄が付きっきりで看病してくれた。
このとき初めて温かいものを口に出来た気がする。
「うまいか?」
「うん、おいしー」
ご飯に沸かしたお湯を掛けて鮭の解しをかけただけの質素なお粥。
それでもおいしかった。
「…爾燕!!」
扉を開けたのは衰弱しきった顔の母。
兄を見つけたなり抱きしめて悟浄を睨みつけた。
「私の夫を誘惑したら次は私の息子なのね!!このインラン女!!」
中の残る鍋をひっくり返した。
飛び散ったご飯はそれなりに熱くやけどを負った。
「この売女!!…私の息子に近づかないで!!」
それから手当ては一日半後。
当然風邪は悪化、それ以来兄は温かいものを作ってはくれなくなった。
寝る前のホットミルクも、温かい紅茶。
気遣ってくれていたのかもしれない。
身体の調子もだいぶ良くなったころ母が悟浄に話しかけた。
「あんたは人の幸せを吸う悪魔よ。人を不幸に陥れるとんでもない生き物…、私たちだけじゃない、両親だってあんたは殺した。だからこんな痛みは当然よ!!」
それから、虐待はひどくなった。
黙って受け入れるようになった。
自分がいけないから…お義母さんは悪くない。
不幸にしてしまった自分が悪い、だからこの痛みは自分が陥れてしまった人たちの痛みの分。

だから、義母に殺される時は少し嬉しかった。

痛みの精算ができたと思ったから、これでお義母さんが楽になれると思ったから。
でもそんな事はない。
自分は今―生きてる

「ごめん、」
三蔵はなぜ謝ったのかよくわからなかった。
「おい、どういうこと…」
「悪いけど出てってくれる、風邪うつしたくねぇし」
何よりも足手まといは必要ねぇんだろ
三蔵は部屋から追い出された。

(なんなんだ、あいつ)
三蔵は八戒が2人部屋ずつと思っていたが風邪をうつすといけないと2人部屋1つ、1人部屋2つの中1部屋にいた。
「ごめんってなんだよ」
やっぱり頼りにならないってことなのか。
信用にされてないって事なのか。
自惚れてたのは自分だけ?
恋人を守ってあげたいって思うのはいけないことなのか。
アイツも男で、自分よりも背の高い成人男性。
守り、守られる関係ではないのはわかっている。
だからお互いを支え合いたいと願うのではないのか?
自分だけが張り切っていたということなのか。
アイツはもう冷めたといことなのか。
「ふざけんじゃねぇぞ」
煙草のケースを握りつぶした。
三蔵は部屋を出て悟浄の部屋の扉を開けた。
まだベッドに座って物思いにふけっていたようだ。
「…さん…っ」
悟浄に近づき抱きしめた。
「足んねぇ頭で考えたってなんもでねぇよ」
「?」
これは自分に当てた言葉だ。
2人で誓ったはずだ、永遠の愛を。
こんな風邪のウイルス一匹で壊されるはずがない。
頼りにされてないはずがない。
「何があったかいわねぇと犯すぞ」
「…え?!」
「汗かいたら熱が引くかもな」
意地悪な笑みを浮かべるが瞳は真剣
「…別に今日何があったって訳じゃねぇよ。…ただ俺は不幸をまき散らす様な奴で…俺の痛みはそのまいた不幸が返ってきてるって前に言われただけ。」
母親に言われた言葉らしい。
今もアイツは言葉に縛られ続けている。
「てめぇはアホか、禁忌は言い伝えで本当にそうかわからねぇ。科学と妖術の二つが合わさると危険って話だ。お前自体が危険ってわけじゃねぇ」
一つ一つわかるように話していく。
「お前は悪魔じゃない。悪くない」
心を縛る鎖がとけた気がする。
三蔵は優しく頭をなでて抱き寄せる。
「それに俺をもっと頼れ。わがままだって聞いてやる、お前という存在をもっと確認していたい」
三蔵の言葉にはっとする。
今まで求められれば答えていた。
順応していた。
もっと我を通していいんだ…。
「すごく不安になる」
三蔵の本音。
悟浄はくすりと笑うと三蔵の背中を抱きしめた。
「じゃあ…初めてわがまま言うわ。」
「何だ」
「…高熱を吹き飛ばすくらいお前を感じていたい」
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