頂き物

□デート
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「デート」(八浄)


僕は、急に悟浄と外を歩いてみたくなった。

「ねぇ、悟浄、たまにはどっか行きません?家の中にばかりいると、カビが生え
そうですよ、僕。」

「どっか行きたい所でもあんの?」

「別にそういう訳じゃないんですけど。」

「ならいいじゃん、"別に"どこにも行かなくたって。」

「うーん…。」

僕と悟浄は、たまに買い出しに一緒に街へ行くことはあったけれど、それ以外は
いつも、家の中でこんな感じで。

僕たちって端から見たら、単なる同居人なんだろうなぁ…。

なんかそれがちょっと、淋しくて、悟浄がたまに出掛けていく先の人たちの方が
、悟浄の事、よく知ってたりして────。

僕はちょっとだけ、また不安になった。

僕は外側から見たら、単に悟浄の同居人で、済ませられてるのかも。

もっと、堂々と街の中で、僕たちの関係を見せ付けてやりたい。

「やっぱり、外、行きましょう、悟浄。」
「お、わ。」

悟浄の腕を無理やり引きずって、僕は強引に二人で街中に出た。


此処はいつも買い物をする市場。

屋外で沢山の店が並んでいた。

「おい、八戒。」

「何ですか?」

「こんな人混みの中で、腕組んで歩くのやめねぇか。」

「どうしてですか?」

僕は意地悪をして、腕をもっと近くに抱きしめてあげました。

「よ、今日も二人で買い物かい。」

そこは、僕たちがよくリンゴを買いに来る店だった。


「ちは、親父っさん。」

「ん?あんたらどうしたんだ、仲良く腕なんか組んじまって。」

「これは賭場での罰ゲームなんだよ!」

悟浄がすかさず、そんな嘘を思いついて言った。

僕はジッと悟浄の横顔を睨む。

「何だよ…。」

悟浄は、僕の無言の訴えに、少々たじろぐ。

「そう、僕たち、罰ゲームの最中なんです。」


チュッ


「え?…」

僕は悟浄の横顔に、笑顔で、堂々とキスをしてやった。

「というわけで、今日はオレンジを4つ下さいな。」

「はあ…、あいよ。」

悟浄と店の主人は呆気にとられて、終始ポカンとしていた。

「はいよ。」

「ありがとうございます。」




僕たちは、市場の通りを抜けて、今度はカフェやレストランが並ぶ通りにやって
来た。

「段々お前が考える事、わかってきた。」
悟浄の腕は、まだ僕が胸に抱いていた。

「それはそれは。なら、次、僕が考えてる事、わかりますよね?」

「まさか────。」

目の前には、若い女同士やカップルばっかりが席に着いている、テラスの付いた
オシャレなカフェがあった。


「あそこにしましょう。」

「ちょっと、待った!!」

「何故、拒むんです?」

「俺は知り合いに侮蔑の眼差しで見られたくない。」

「何言ってるんですか、今更。禁忌の子なら、差別される事には慣れっこでしょ
うに。」

「俺はこれ以上、何も失いたくねぇんだよ!」

すると、悟浄は店先で僕の腕を無理やり引き剥がした。

「あ…。」

僕の胸に、深い痛みが走った。

不安だった予測が的中してしまった瞬間だった。

「…………。」

僕はオレンジの入った紙袋を路地に投げ捨てて、一人訳も分からない方向へ走り
出した。


「って、オイ!八戒!!」





ったく、あいつ、一体、何考えてんだか────。




「う…、う…。」

僕は急に悔しくて涙が出てきて、とりあえず人気の無い道を選んで辿り着いたの
は、名前も知らない湖のほとりだった。


「此処、どこでしょうか…。」

独り言を言ってみても、辺りからは何も返答は無い。

「…………。」

今日はしばらく、ここに居ようかな。

僕は日が暮れるまで、湖畔の小さな波打ちを見ては、風の吹く方向を探っていた
────。





「ったく、あいつ、何処行ったんだか…。」

日はとっくに西へ傾き始め、空は暗くなり始めていた。


「八戒…。」




「そろそろ、お腹も空いてきましたし、帰りましょうかね…。」

僕は落ち葉に乗っていた腰を持ち上げ、来た方角を見ると。


「…………。」

何処から来たのか、わからなくなっていた────。
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