小説3

□PURE PINK 六章
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「ここは…」


次に現れた光景は一人ぼっちの自分の姿だった。
今度は先ほどのように隣にキラがいない。

 一人で蹲って、全てを拒絶しているようなそんな自分。

見ているだけで張り裂けそうな悲しみがそこにあるようで、小さい俺の側まで近寄った。

 近づいて見ると泣いているようだ。

すすり泣く声が聞こえる。

俺は、意味がないと分かっていて、幼い自分に話し掛けてみた。



「なんで泣いているんだ?」

『キラが居なくなったんだ。俺の側から…。』

「・・・・・・。」


(いなくなった?ということは、キラと俺は一緒にいたということか。)


『隣を向いてもあいつはいない。探しても、どこにもいない。』


 ぶつぶつと、呟くその声は悲痛なものだった。


『さみしい。寂しくて死んでしまいそうだ。』


 心が抉られるように痛い。
 小さい頃の俺と心がリンクしていくようだった。

『いつも、隣にいたのに。キラは俺をおいていったんだ』
 無気力な、何も写さない瞳。この頃の俺は、こんなに空虚な目をしていたのか・・・。


『どうしたらいい?どうすれば、この寂しさは埋まる?』
 

小さい自分は、虚ろな目で誰もいない空間を見つめて呟く続ける。


『叔父さんの都合だからって・・・。仕方ないって分かっているけど・・・俺を一人にしないでくれ、キラ』


(そう・・・だ。キラのお父さんの転勤で・・・。あいつがいなくなって俺は・・・)


幼い自分の言葉に、記憶がどんどん蘇っていく。


『お前が、いないと笑い方も分からない。目の前が真っ黒になったみたいでとても辛いんだ。』

 
 別れる前は知らなかった。
こんなにキラの存在が、自分に取って大きいなんて。

 最後まで駄々を捏ねていたキラと違って、自分はちゃんと納得した上で別れを迎えたはずなのに。

少し位、離れても大丈夫だと思っていたのに。

キラがいなくても、今まで通りに進んでいけると・・・。


 ―――なんて、愚かな勘違い。


 俺は、キラがいてくれないと何もできない。
 別れを受け入れられていないのは、俺のほうだ。

 あいつが、側にいないだけでこんなに自分の心が悲鳴をあげる。

 名を呼んでも答える声は、返ってこない。

 また会おうって約束したけど、そんなのあやふやで・・・。

キラが忘れていれば、それで終わりだ。

 絶望的な思考が、巡る。


 もうイヤだ。耐えられない。


 こんなに、辛いなら・・・。



『―――いっそ忘れてしまった方が…。』



 ――――――記憶の断片が全て合わさった気がした。
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