小説 2
□DAY BREAK 1章(1-6)
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「ここまでくれば…大丈夫…かな?」
辺りを見回すと、どうやらここは町外れの路地のようだった。
走って、走って…走って…。
自分の体力が持つ限りに、遠くへと来たつもりだ。
人間たちの足よりも、自分のスピードは速いから。
まだ彼らが追ってくるのには時間がかかるだろう。
少しの間だけ、安心出来るはずだ。
―――――そう思って息を吐いた瞬間、突然身体がぐらりと傾いた。
「ぃっ…」
力が入らなくて、支えるものもない状態で…。
そのままどさっと、大袈裟な音を立てて地へを伏してしまう。
「はぁ…はぁ…。無理、しすぎちゃった…かな」
無様にコンクリートの上に行き倒れても、起き上がる気力も沸かない。
けど、よく持った方だった。
逃げる時点で、すでに体力が残り僅かになっていたから。
「うっ……」
負わされた傷が熱を持って、じんじんと痛む。
こんな傷を負った原因は、自分でもらしくない行動のせいだった。
いわゆる、人助けをいうものをやってしまったが為に負った傷。
それにしても、自分でも苦笑するくらいのお人好しぶりだと思った。
人間の子供を助ける為に身を呈するなど、化け物の自分らしくない。
そして、本当についていない。
子供を助けた事で僕の正体がばれて、ハンターに撃たれるなんて。
自分とて、始めは子供など助けるつもりなんてなかった。
でも、小さい、まだ十にも満たない子供に銃を向けていた兵士を見て、思わず頭に血が上って。
そうして、気が付いたときには、助けてしまっていた。
それにしてもと思う。あんな幼子に向かって暴力を振るうなんて。
人間は僕のことを化け物というけれど、奴等の方がよっぽど化け物だと思った。
「いたい…」
ドクドクと、切り付けられた皮膚から動悸を感じる。体中が痺れているところをみると、何か毒を盛られたようだ。
毒は時間が経つにつれ体中を巡り、少しずつ侵食していく。
普段の、体力が全快している自分なら、こんな傷すぐに治せたのに…。
本当に、ついていないとしか言いようがない。自分の運の悪さに、苦い笑いが漏れた。
身体の毒といい、負わされた傷具合といい…結構な重傷だ。
それに、空がそろそろ明るんできた。
もうすぐ、夜明けが来てしまう。
たたでさえ、吸血鬼という種族は陽の光に弱い。
健康な身体のときでさえ、陽の光は危険なのに、こんなに弱ってしまっている今の状態ではひとたまりない。
一刻も早く、生気を吸って回復しなければ僕は消えてしまうのだろう。
――――けれど…、それでもいいかと思った。
僕は、人なざる者として充分すぎるくらい生き延びてきたのだから。
それに、いい加減疲れてきた。
歳を取ることもなく、ただ生き抜いていくのも。
ヴァンパイアを狩ろうとするハンターに追われるのも。
夜の闇に、一人で世界をさ迷うのも…。
ここまで生きてこれたのだ。
今この場で、闇に還えっても、悔いはない。
(これも、運命かな…。)
今まで生きてきた人生で一つも後悔がなかったと言ったら嘘になる。
けど、自分の思うが侭に自由に生きてきたつもりだし 、色々な事があったけど…それでも悪くない人生だった。
一つだけ欲をいうなら、誰かを愛してみたかったな。
生れてから一度も、誰かを愛したり愛されたりなんて経験がなかったものだから。
少なくとも、一人で孤独に消えたくなかったと思う。
そんなことを思っても今更なことだけれども。
ふぅ…と、大きく息を取り込んで深呼吸する。
そうして全てを諦めて、ゆっくりと目を伏せた。
このまま眠ってしまえば、苦しみを感じずに消えることができるだろう。
次に生まれ変わることが在るなら、今度は吸血鬼なんかじゃなくて普通の人間として生まれますように…。
そう願って意識を手放そうとしたときだった。
「つまらない、死んでしまうのか?」
「え…?」
――――ふと、降ってきた美声。
「だ…れ?」