短篇&キリリク

□CRSTAL MERODY 5章
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・5・ 遭遇



「さぁ、次はお待ちかね。FREEDAMの皆さんです!」


 ナレーターの明るい声が響く。

 そして、それに呼応するように証明が明るく照り輝いた。




番組の収録のために、僕は舞台の上に立っている。

一度は、諦めたステージだった。


ほんの数刻前まではもう駄目だと。
二度と歌うことなんてできないと思い詰めていて。

それこそ、本気で引退を考えたほどだった。


だけど、僕はこうして再び今、この場に立ち再び声を紡ぎだそうとしている。



「―――――っ…」



 曲のイントロが鳴り始める。

 後数秒もすれば、自分のパートが始まるだろう。

 どくん、どくんと緊張で胸が軋んだ。


 マイクを持つ、右手が小刻みに震えている。


 嫌な冷や汗が流れて、本当なら止めてしまいたい。

この場から、今すぐ逃げてしまいたいと思う。
 
  

でも…。


ちらりと、横目で紺色の髪の相方を見る。

 不安な眼差しで見つめれば、彼は密かに微笑んでくれた。

碧の瞳が、大丈夫だ…と優しく瞬いている。


(―――――アスラン…。)


いつも隣にいてくれる、僕の大切な相棒。


アスランは僕をいつも支えてくれて、助けてくれる。


こんなどうしようもない僕を、見捨てないで励ましてくれた。


『俺と、一緒にがんばろう?』


どれだけその言葉に救われたか…。

きっと、君は知らない。


もう誰も僕の歌を聞いてくれないような気がして、目の前が真っ暗になったあの時も。


 君がどこまでも、優しく励ましてくれたから。
頑張ろうって言ってくれたから。


だから、僕は今ここに在る。

本当は、まだ怖いし立ち直れていない。

 今でも、声を出そうとするたびに悲しみと恐怖が襲うけれど。


けれど…。



もう、僕は自分に負けていたくない。

何より、これ以上アスランに迷惑を掛けたくない。

彼と対等な立場でいたいから。

だから…。


覚悟を決めて、正面を見据える。

そして、僕はマイクに向かって声を紡いだ。


「――――では、僕たちの歌…聞いて下さい」
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