短篇&キリリク

□CRSTAL MERODY 4章 後編
1ページ/5ページ



「ム…ムゥさんっ?」


低い大人の男性の声。僕の大好きな彼の声だ。

ムゥさんの声を聞いた途端、安心感か堪えていた涙が零れた。


『どうしたんだよ、キラ』

「よ…よかった…!」


ムゥさんに、繋がった…繋がったよ!


これで助かる。

助けて貰える。

この暗くて怖い所から、出してくれるんだ。


だって、ムゥさんは言ってたもの。


僕が困った時は、いつでも力になってやるって。

助けてやるって約束してくれた。


だから、彼ならきっと僕を助けてくれる。

もう大丈夫なんだ。


そう思ったら、安堵で余計に涙がポロポロ零れた。


『お前、なんで電話かけて来るんだよ。しばらくは、
俺に連絡すんなって言ってあっただろ?それとも、なんか急ぎの用か?』


受話器から聞こえる冷たい彼の声。


何かムゥさんは怒っているみたいだった。


(そういえば…。ムゥさんに別れる前に電話とか出来る限りしないでくれって念を押されていたっけ。)


でも、今は緊急事態なんだ。


身に迫る危険をなんとかして欲しくて…頼れる人はムゥさんしかいないから。

今だけは、僕を助けて。


「あ…。ごめんなさ…。でも、僕…助けて欲しくて…!」


『助ける?お前のサポートって事か?そんなのマネージャーにでも頼めよ。俺は忙しいんだからさ』


「違っ…そうじゃなくて…。僕、今…襲われて…」


なんと言ったら伝わるだろう。


彼は、今の僕の状態を知らないから、僕の助けを求める声も軽いものと思っているらしい。


『あ?なんて言った?ジージー言っててよく聞こえねーぜ』


「ちょっと待って…」


倉庫の中だから、電波が悪いのかもしれない。

せめて、ドアの近くならマシかもと思って移動しようとする。


「ここなら…」


だけど、現実は厳しいもので…。


移動した先の方が、電波が届きにくいらしくさっきよりもムゥさんの言葉が遠い気がした。


『電波悪いみたいだし、もう切るぞ』


「待って、ムゥさん!」


このまま切られては、堪らない。

まだ伝えたい事の半分も言っていないのだ。


せめて、もう少し話を聞いて欲しい。


その一心で彼を引き止めようと必死だった。


けれど…。


『まだ何かあるのかよ。いい加減にしてくれ。今は、お前から電話掛かってくるとまずいんだよ。婚約がおじゃんになっちまうだろ?悪いがもう掛けて来ないでくれ。』


「え…」


冷たい声だった。

まるで敵を相手にする時のような、攻撃的な音。


彼は、本気で僕を切り捨てる気のようだった。


『じゃあな』


「あ、待って…!」


切らないで、僕を見捨てないで。


お願いだから、助けて。ムゥさん…!


―――――――プツっ…。


『ツーツー…』


僕の叫びも虚しく、電話は無情にも切られてしまった。


後に残ったのは、冷たい電子音のみ。


「そん…な」


僕は…完全に、見捨てられた…?


「ぁ……」


そう自覚した途端、涙が溢れて止まらなかった。


ムゥさんは、本当に僕の事なんてもうどうでもいいのかもしれない。

彼には婚約者が出来たから。


だから、もう僕が邪魔で煩わしいのかも…。


だって、僕があんなに必死で助けを求めても面倒くさそうな返事しか返してくれなかった。


“キラの危ないときは、俺が助けてやるよ”


ふと、耳に蘇るのは…まだ付き合っていた頃にムゥさんが、僕に言ってくれた台詞。


“キラはさ、こんなに可愛いし華奢で変な輩に狙われやすいだろ?でも、これからは俺がキラを助けてやるし守ってやる”


確かに、そう言ってくれたのに…。なのに…。


「―――――っ…」


「折角、電話繋がったのに切られちゃって・・残念だったね、キラ。」


悲感にくれている僕に、突然背後から声が降ってきた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ