短篇&キリリク
□CRSATAL MERODY 第一章
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・1・ 片思い
「はい、OK。お疲れ様。終わっていいよ」
「ありがとうございました」
*
「あー疲れた。あの音響監督、厳しいんだもん。20回も歌い直しなんて、鬼だと思わない?」
今日の収録を終えて、約8時間ぶりに休憩室に戻ってきた俺たち。
今日は朝早くから夕方まで収録で、この後は番組の撮りが控えているという激しいスケジュールだ。
特にキラは、メインボーカルでずっとエネルギーを使っていたから、疲労の色が濃いようだった。
「まぁ、そういうなって。それだけ、プロの世界は厳しいってことだろ。それに、取り直した分だけ最後は納得できるできのモノができたんだからいいじゃないか。」
「むー。それは、そうだけどさ」
可愛い動作で文句を言い続けるキラを軽く嗜めて、冷蔵庫から飲み物を取り出す。
「キラは気分屋だから、気が乗らないと歌えなかったりするからこれくらいが丁度いいんだよ。ほら。お前の好きなジュース。水分補給はちゃんとしとけよ」
「ありがと、実はすごく喉が渇いていたんだよね」
「それ飲んだら、次の番組のチェックするぞ」
「はーい」
キラに手渡して飲み物を渡したときに、ふと、長い髪がさらりと目の前で揺れた。
「しかし、伸びたな。お前の髪も」
長い栗色の髪。
はじめてあった時には、短いシャギーのヘアスタイルだったのに、随分変わったものだ。
「結構ね。頑張ったら腰まで届くくらいだし」
「伸ばしてるのか?」
「うん、ちょっとした理由があってね」
何故か照れたような顔で、呟くキラ。
「ふーん。でも、俺としては、長い髪のお前よりも短い髪のキラの方が好きなんだけどな」
もちろん今の長い髪のキラも好きなのだが、何か彼にはロングが似合わない気がする。
その華奢な容姿に重々しく束ねられた髪は、重りのようで彼の自由を奪っているようにしか見えなくて。
彼に似合うのは、出会った時のように短いさらりとしたショートヘアだと思う。
「アスランの好みって、ショートカットだっけ?」
「そうじゃなくて…」
遠まわしに告白のつもりだったんだけど…。
こいつは、相変わらず鈍いな。
まぁ、そういうことろも好きだからしょうがないけどさ。
そんなことを思う辺り、俺も重症だな…。
「あ、そうだ。話がそれちゃったけど、もうすぐ次の番組の収録時間だよね?それで、次の出演番組って何だっけ?」
「さっきマネージャーに渡された予定表が…。ああ、これだ。次は、フレイ・アルスターの恋愛お悩み相談室≠ゥ。」
今をときめく女性アイドル、フレイ・アルスターが司会進行を勤める番組で、占いだとか、ゲストの恋話とかを交えながら歌を歌っていくという類のものだ。
いかにも、若い女の子達が好きそうな内容だな…と深いため息を吐いた。
「また俺たちには縁のない番組だな…。恋愛なんて、今はしている場合じゃない。好きな人も、俺達にはいないし…」
今は、仕事の面で大事な時期だし色事に走る余裕はない。
まぁ俺の場合は、キラ以外は…だけど。
「僕…いるけど…」
ふと、小さな声で呟かれた囁き。
「ん?今、何か言ったか?」
キラは、頬を赤く染めて、何やらモジモジした様子だった。
なんだろうと思って、視線だけで続きを促す。
そうすれば、信じられない告白をされた。
「好きな人…僕はいるよっていったの…!」
「―――え…?」
今、なんて言った?
「好きな人がいるって、キラに…?」
嘘、だろ?
キラに、想い人が……。
目の前が、真っ黒になっていく気がした。
高い所から下に突き落とされるような、激しい衝
撃。
信じられなくて…信じたくなくて、呆然と立ち尽くすしか出来ない。