短篇&キリリク
□あかいわな
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−−それは、確かある童話の話から始まったと思う。
その日、僕とアスランは今日の仕事を終えて穏やかな時間をすごしていた。
ただでさえ、一緒にいる時間が少ない僕たちだから、こうやってなんでもない話をするこ時間はとても貴重だ。
夕方から話し始めて、深夜に時を移しても話の種は尽きることなく盛り上がっていく。
ーーーそんな矢先だった。
彼が、ある童話の話を持ち出したのは…。
「赤頭巾…?どういう話なの?」
「森に暮らしていた赤頭巾と呼ばれる少女が祖母を見舞いに行き途中で狼に狙われてしまうという…」
「へぇ…」
「東の国に伝わる古い童話だそうだ」
「それで、その赤頭巾だっけ?…は、どうなったの?」
「ついには騙されて狼に食べられてしまう」
「…そうなんだ。食べられて終わりなんてなんか嫌な最後だね。可哀想だし…」
「まあ、まだ誰もしらない続きがあるんだけどね」
「えっ?何、何?」
「本当は、赤頭巾は……」
●あかいわな●
何故こんな事になったのか…。
「はぁ…はぁっ…」
――――僕は今、彼から逃げる為必死で夜道を走っていた。
無我夢中で、街を駆け抜け気配を隠す為森に入ってもなんせ相手はあのアスランだ。
運動神経・俊敏力においても彼は僕より優秀で…。
彼が本気を出せば、とてもじゃないが自分などすぐ捕まってしまうだろう。
早く、早く…。
もっと早く走らなければ。
そうじゃないと、後ろから追って来ているアスランに捕まえられてしまう。
−−それだけは、避けなければ
だって捕まれば
僕の心も身体も魂まで、まるごと全て
彼に喰べられてしまうだろうから
それは数時間前の、事だった。
『冗談はやめてよっ…!』
さっきまで平和に童話の話なんかで盛り上がっていたのに。
色んな話をして二人、静かに淡いときを共有していたのに…。
その優しい時間を壊したのはアスランの戯れともいえる行為のせい。
『冗談なんかじゃない。俺は本気だよ、キラ』
彼はまだ口付けの余韻か濡れた唇で淡々と言う。
それに対して僕は突然の事で頭に血が上り、とっさに叫んでいた。
『だって冗談にしか取れないよ?!アスランが僕を好きなんて、そんなこと…』
あるはずないと、心の中でつぶやく。
冗談でもたちが悪い…。
だって、彼は僕なんかを相手にしなくても未来ある僕の姉が彼にはいるんだから。