小説3
□PURE CHERRY 2章【後半】
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「キラ、お風呂空いたから」
「――――っ……」
風呂場から、バスローブに身を包んだ彼が出てくる。
まだ湯気を放ちながら、ゆったりと近づいてくるアスランはいつもと違って見えた。
(うわぁ…。 お風呂上がりのアスランって…。 なんて、いうか…)
いつもは、ふわりとしている髪が水に滴って艶っぽいし、バスローブを纏った彼は同性の自分から見ても魅力的に映った。
同性である彼に、こんな事を思うのおかしいかもしれないけど。
(どうしよう、アスラン…すごく、色っぽい。)
まるで、何かに魅入られたかのように彼から視線を逸らせない。
「キラ?」
「………」
「キーラ」
「…………」
「キラってば!」
至近距離で名を呼ばれて、はっと我に返った。
「わっ。あ、アスラン?」
「どうしたんだ、ぼーっとして」
「え、あ…ちょっと…その」
君に見とれていました…なんて言えなくて口ごもる。
「頬が赤いぞ?風邪でも引いたのか?」
「あ、う…ううん、大丈夫」
だよ…と続けようとしたけど、次の瞬間…彼の意外な行動に、僕の心臓が止まりそうになった。
「熱は…ないな」
お互いの距離が限りなく近い、体勢。
所謂、おでことおでこをくっけて熱を測る、というやつだ。
(ア、アスランの顔が…顔がーーっ!)
今にも唇が触れ合わんという距離に、彼の顔があって…。
心臓どころか、呼吸さえおかしくなるのを自覚する。
「キラ?大丈夫か、どんどん顔が赤くなってるぞ?」
「な…なんでもない。お、お風呂!そう次僕の番だったよね?」
「そうだけど・・・」
「お風呂入ってくるね!」
「おい、キラ…」
赤く熟れた顔をこれ以上見せたくなくて、逃げるように風呂場へ走り去る。
ばたんっ…
浴槽のドアを大きく音を立てて閉めると、その場にずるずるとしゃがみこんだ。
うわあ…びっくりした。
絶対、今の僕は顔が真っ赤になってるはず。
アスランが、急に至近距離で見つめてくるから・・・。
(僕、馬鹿みたい。一人で勝手にドキドキして…。)
これというのも、全部アスランがカッコいいから悪いんだ。
服を脱ぎながら、それにしても…と思う。
ちらっと見えたアスランの胸元…僕よりも逞しかったな。
妙に、目を引き付けるっていうか。
色気があるっていうか。
僕って、いつもあんなに綺麗な身体に抱きしめられていたのか…。
(な、何を考えているんだろ。僕…変だよ。)
ちゃぷん…と、湯に付かりながら彼の人を想う。
「アスランは・・・僕の恋人だけど男で・・・僕も男だからこんな風にドキドキは変なんだ。」
だから、平常心を保たないと。
あんまり意識していたら、おかしく思われちゃう。
ただでさえ、彼を見ているとどきどきするのに。
(平常心、平常心・・・)
自分に言い聞かせるように、ぶつぶつ呟く。
そうこうしているうちに、思考がふわふわして意識が遠くなってきた。
「んっ・・・・・・」
(あれ…?変だな…。 身体が熱い…。)
湯船に使ってるだけなのに、だんだんと熱が身体に回ってきてるような感覚。
(どうしちゃったんだろ・・・。それに、回りがぐるぐる回ってる?)
頭が、熱に犯されたような…そんな感じ。
長い間、風呂に浸かりすぎた所為でのぼせたのかもしれない。
(とりあえず、ここから出ないと…。あんまり、長く入ってるとアスランが心配する・・・)
そう思うのに、身体が重くて言う事が聞かない。
立ち上がろうとすると、ぐらぐらして自分を自分で支えられない。
「あ・・・」
(あ…つい…)
頭が朦朧として、とても熱くて…。
「・・・・・・っ・・・」
――――もう自分で身体を支える事さえ出来なくて、白いタイルに体を預け意識を遠くに飛ばしてしまった。