小説3
□PURE PINK 五章
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・5・真意
あれから、桜帽子(あいつがいつまでも名前を教えてくれなかったので、そう呼んでいる)は俺の前に姿を現さなくなった。
その理由は分かっている。
俺があいつの気持ちも考えずに感情のまま動いてしまったから。
始めてあった時からあいつには、どこか他の奴と違う特別な何かを感じていた。
あいつといると、心が癒される気がした。
話をしていて、とても明るい気持ちになれる。
救われる・・・といったら大げさかもしれないが、桜帽子といるだけで幸せな気分になれたんだ。
あいつを大事にしたいし、大切にしたい。
あいつが、誰かなんて関係ない。
ただ側にいて欲しい。
いつしか、そう思うようになって・・・この気持ちが友情ではなく恋だと自覚した。
そうして、気付いた時には、言葉が口から零れていた。
好きだ、そう告げた時のあいつの顔が忘れられない。
(泣いてたな、あいつ・・・)
確かに、いきなりキスをしてしまったのは問題があったとは思うけど。
・・・あのときは、こみ上げる気持ちが押さえられなくて、どうしようもなかった。
キスしたときに涙を流す姿を思い出して、少し罪悪感がこみ上げる。
だけど、あの時は愛しいと思うままに、気持ちを伝えるのに必死で衝動のまま動いてしまった。
(嫌われてしまっただろうか・・・)
仮に、嫌われたしても文句は言えないけれど。
あいつがどう思ってるか考えないで、行動したのは俺なんだから。
俺は、逃げ去った桜帽子の行方を必死に追っている。けど、顔も名前も知らない相手だ。
探すといっても限界がある。
(唯一分かっている事といえば、声くらいか)
気持ちを告げた日から数日・・・。
ずっと、あいつを探し続けた。
たぶん、あの桜帽子の少年は俺と同じ色の制服のネクタイをしていたから同じ学年のはずだ。
そう思って、それらしい人物を片っ端から当たってみたけれど見つからず・・・。
あれから、あいつは一度も姿を見せない。
(もう、会えないんだろうか)
嫌われていてもいい。
ただ、もう一度会って話がしたかった。
そんな思考に捕らわれていると、身体に鈍い衝撃が走った。
どんっ!
「いた・・・っ」
前を歩いていた少年とぶつかってしまったみたいだ。
物思いに耽っていたから前が見えてなかったらしい。
「あ、すまない。怪我は?」
俺の方からぶつかったので衝撃はさほどなかったが、ぶつかられた少年は少々ダメージを負ったのか、軽く突き飛ばされて座り込んでいる。
俺は、体制を立て直すと、少年に手を伸ばした。
「大丈夫ですか?」