小説 2
□DAY BREAK 第3章(1-4)
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・3・ 指令
――――体の調子がおかしい。
自分でも分かる。
俺の命は、もう長くはないだろう。
毎日、少しずつ病んでいく身体。
確実に弱っていくのが分かる。
別に、この世に未練は無い。
いつか人間は死んでしまうものだから。
それが、遅いか早いかだけで、どんな生き物でも死はやってくる。
だから、それを恐れたりはしないし怖いとも思わない。
唯一の心残るがあるとしたら、俺を置いて行方を晦ましたあいつのこと。
どこへ行ってしまったんだ、キラ。
病気を治す方法を見つけるといって突然、消えてしまったあいつ。
そんなことをしなくていいから…俺の側にいて欲しかったのに。
キラがいてくれるだけで、どんな苦しいことも乗り越えられるから。
俺が息絶える瞬間まで側にいて、その愛しいぬくもりを感じさせて欲しいのに…。
―――――皮肉にも、この病気がキラを再会する為の鍵となるなんて…このときは、思いもしなかった。
**
「あら、アスラン。出歩かれて大丈夫ですの?」
「お久しぶりですね、ラクス」
近づいてくる桜色の髪の少女。
彼女は俺の友人で、俺とキラの関係を知る数少ない人物でもあった。
「体の調子は如何ですか?」
「ああ、大分いいよ。」
本当はあまり体調はよくないけれど、彼女に心配を掛けたくはなくて笑顔を作る。
「それは、良かったですわ。でもまだ顔色が悪いですわね。無理をなさらないで下さいね」
「お気遣いありがとう、ラクス」
心から身を案じてくれているのが分かり、素直に礼を言った。
「そういえば…キラは、見つかりまして?」
「いや、まだ行方が分かっていません。手がかりの一つさえ分からない状態で」
「そうですか…」
「もう半年になります。キラの行方が分からなくなってから」
彼が去ってから、季節が一つ巡って今はもう冬になる。
「キラはどうされたのでしょうね。彼の性格を考えるなら身体を病んでいる貴方を置いて姿を消すなど考えられませんのに」
本当にその通りだ。
あいつは、とても優しいから誰かに心配をかける事を嫌う。
ある日、突然消えるなんて迷惑のかかる事をキラの意思でやったとは考えにくかった。
「それより、ラクス。俺に何か用があったのでは?」
「あぁ、そうでしたわ。コミュニティの方々が、貴方を探していましたよ」
「―――コミュニティが?」
コミュニティというのは、吸血鬼を取り締まる組織のようなものだ。
聖職者やハンター、国の代表などで構成された団体で、対吸血鬼の為の警察のような役割をもつ。
人間より優れていて、巨大な力を持つヴァンパイア達。
彼らは、比較的温厚で滅多なことで人間に干渉してこないのだけれど、身体能力が彼らより大幅に劣る人間は不安なんだろう。
自分たちより優れた種族が、何の戒めもなく自由に野放しにされているのが。
そんな機関からの呼び出し?
俺はコミュニティなんかと関わりはないはずなのに。
「俺に何の用だ?」
―――――灰色の空に、嫌な予感を覚えた。