小説 2

□DAY BREAK 第2章(1-5)
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・2・ 蜜月




 半年くらい前、俺が神父を務める教会の近くで人を拾った。


そいつは瀕死の重傷を負っていて、身体の至る所から血を流し、着ている服もボロボロで、今にも息を引き
取りそうだった。

話し掛けたのは、ちょっとした好奇心。

死にかけているそいつの瞳が、見たこともないくらい澄んでいたから…少し興味がわいたのだ。


けど、始めは助けるつもりなどなかった。


混沌としている今の世の中、人が行き倒れているという光景は珍しくないし、第一そんなのを一々、同情して助ける余裕なんて俺にはない。

だから、今回も見て見ぬフリをつもりだったのだ。

だけど、そいつが全てを諦めたように、穏やかな顔で
目を閉じた瞬間、何故か腹が立ってしまって。

彼がここで死んでしまったら、せっかく綺麗だと思った紫石の瞳がもう見れなくなってしまう。


それは、嫌だと何故かそう思ってしまった。


もし、そいつが助けてくれ、死にたくないなどと見苦しい命乞いをしてきたなら、きっと自分は見捨てていたに違いない。

こんな風に、助けようという気にはならなかったものを。



そこまで考えて、深いため息を吐く。


 何だかんだと言っても、結局助けてしまったからには、しょうがない。

一度、助けてしまった奴を、もう一度捨てる事などできるはずもないので、仕方なく怪我が治りきるまで介護してやる事にした。


怪我が治るまでの間、共に暮らして感じた事は…そいつが、不思議な奴だということだった。


一度、死に掛けた奴とは思えないほど、そいつは回復も早く、何より、よくしゃべり、よく食べ、よく笑った。

何が楽しいのか分からないが、俺が話し掛けるたび、にこにこと微笑んで嬉しそうにしている。

そうして、そんな奴を見ているとこっちまで釣られて笑ってしまう。

奴と過ごしていると、何故か分からないがいつも感じていた空虚感が埋まっている気がした。

充実している毎日…なんて単語が当てはまるほど、満たされる何か。

いつも殺伐と、仕事をこなし、人としての情など持たなかった冷徹な過去の自分が嘘のようだ。

人と触れ合いながら生活する事が、こんなにも暖かいものなのだと知らなかった。


こんなこと、今まで感じた事がなかったのに…。


そいつの傷が一通り治り、元気になった頃には…俺は最後まで面倒を見てやってもいいかという気になっていた。


まあ、結局は行く宛ても身寄りもないと言うので、仕方なく俺が身柄を引き取ることにしたのだが。



―――― 不思議な、俺の同居人。


 そいつの名前をキラといった。








「ねえ、アスラン」


俺の職業である神父の今日の仕事が終わり、今はプライベートな時間を過ごしていた。

プライベートの時間を誰かと共に過ごすなど、キラを拾うまでは考えられなかった事だった。

本当に、こいつが来てから自分の生活は変わったなと思う。


「何だ?今忙しいんだ。後にしろ」


「…聖書なんて読んで面白い?」


「面白くはないが、他にすることもないから暇つぶし」


「暇なら、僕と遊んでよ。アスラン」


「昨日、あんなにたっぷりと遊んでやったのに、まだ足りないのか?」


そう、この会話からも聞いて分かるように、どこでどう間違ったか知らないが…俺達は世間で言う恋人関係にある。


「そっちの遊ぶじゃなくて!暇なら僕に構ってよって意味なの。」


「何だ、つまらない。そっちの誘いならすぐにでも、のってやるのに」


「聖職者は禁欲じゃなかったっけ?」


「そんなのは一部の信者だけが実践していることだろ?俺には無理」


そう言いながら、読んでいた本を閉じると、キラの身体を抱き込んだ。

 にやりと、意地悪く笑んで細い身体を押し倒していく。
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